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2009年2月25日 (水)

「欲望する脳」と「つみきのいえ」

神経経済学という学問がある。



人間というものが時として合理的ではない行動をとってしまうという事を説明しようとする脳科学だ。

脳科学者の茂木健一郎氏の「欲望する脳」では以下のように記している。



ネットショッピングにおける「購入」のクリックが意識的に開始される一秒前からその準備活動が無意識のうちに始まっているという事実は、デジタル消費社会における人々の行動倫理を考える上で、大切な教訓を与えてくれるはずだ。



おそらく、人間は思ったほどは意志的には生きられない生き物なのだ。

将来的には、自分では「自由意志」で行っていると信じている多くの行動が、実は脳内分泌物で説明できるということになるかもしれない。



人々がサイトからサイトへと移っていく際の選択のメカニズムには、必然的に不確実性が伴う。あるサイトの内容が興味深いものかどうか、クリックしてみるまではわからない。

もし、神経経済学的手法によって、人々のクリックの傾向がどのような要素に影響を受けて決まるのか予想できれば、直ちにそれはお金へと換算されることになる。




しかし、神経経済学が実際にビジネスに応用されたとして、それがトータルとして人類の役に経つとはどうしても思えない。

そこが難しいところだ。



茂木先生は、最終的には人間の行動や感情をトータルで説明しようとする科学理論を信じるという立場に立っているが、一方で、合理性から漏れてしまう人間の心情にも最大限の敬意を抱いているようにも思える。

その揺らぎがこの本を魅力的にしているのだ。



さて、先日、アカデミー賞の短編アニメーション賞を受賞した加藤久仁生氏の「つみきのいえ」は、同時に外国語映画賞を受賞した「おくりびと」と同様に、そういった人間の非合理的さを描いた素晴らしい作品であった。

水没していく土地で、どんどん天に向かってレンガを積み、上の階に移住していく一人の老人。

パイプを水の中に落としてしまい、それを拾おうと、下の階に潜水していき、そのたびに過去を思い出していくのである。



傍から冷静に見れば、水没を逃れて別の土地に移ればいいと思うのだが、それでも思い出がつまった土地から離れられない、いや離れようともしない、そんな老人を限りなく愛おしく描いている。

人にとって一番の宝物は、やはり思い出の豊かさである。



まさむね

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