2000年以降のヒット曲には何故「桜」の歌が多いのか
先週のミュージックステーションは、3時間スペシャルで昭和の歌と平成の歌の、それぞれ投票によるベスト100が発表され、大変興味深かった。
まずは、昭和のベスト100、特に70年代の曲を見ると、なごり雪(7位)、木綿のハンカチーフ(29位)、心の旅(51位)、喝采(54位)といったところが目立つ。
これらの曲はみんな都会と故郷という図式が明確な歌なのである。
「心の旅」は、男性が都会に発つ前の日の、恋人を思う気持ちを歌にしている。
「なごり雪」では、汽車で帰るのは女性。男性の女性への残る気持ちと、二人が別れる駅のフォームでの情景を描いている。
「木綿のハンカチーフ」は、男性が都会に出てしまい、それから半年までの二人の生活と心の動きを歌った歌。
「喝采」は、都会に出て、歌手になった女性が3年ぶりに故郷に帰った時の心情を歌に込めている。
それぞれの状況は微妙に違うが、そこには男と女、都会と故郷というテーマがみえる。
あの頃は、つき合うという事と結婚という事が近い時代だ。
だから、二人が別れる物語には、上京や帰省が説得力を持ったのだと思う。
当時は、別の女性(あるいは男性)が好きになったから別れる、などといえるほど、恋愛の自由さはなかったのだ。
◆
昭和ベスト100の一番というのが、尾崎豊の「I love you」というのは凄い。
記録によると当時はオリコンでは最高5位だ。それが20年以上の時を経て、人々の心をつかんでいる。
歌詞を見ると、「逃れ逃れ辿り着いたこの部屋」「何もかも許された恋じゃない」「二人の愛には触れられぬ過去がある」というようなフレーズに目が行く。
おそらく、学校とか親とかから駆け落ちみたいに逃げてきた二人?
反社会的なシチュエーション、そしてそれと反比例した二人の愛。
「きしむベッド」とか「落ち葉に埋もれた空き箱みたいな部屋」みたいな状況は決して豊かではない。むしろ貧乏臭い。しかも不幸の影もある。
でも、この追い詰められた切ない感じにリアリティがある。
昨今の社会状況を考えると、こういう「切なくて美しい貧乏」を描いた歌が再び求められている時代なのかも。
◆
平成のベスト100を見ると、花、特に桜を歌った歌で、しかも、2000年以降の曲が多い。
1位 世界に一つだけの花(SMAP)、 3位 蕾(コブクロ)、6位 桜坂(福山雅治)、14位 チャリー(スピッツ)、23位 さくらんぼ(大塚愛)、26位 花(ORANGE RANGE)、27位さくら(ケツメイシ)、31位 桜(コブクロ)、47位 さくら(森山直太朗)、70位(CHE.R.RY)YUI。
おそらく、背景には、バラバラになってしまった日本人が、日本人としてのアイデンティティのよりどころを桜に求めているという事がある。
数少なくなった日本人としての共通の感性が、桜を愛でるという事。
もう、駅のプラットフォームでは共通の物語は作れなくなった時代に、男も女も、大人も子供も、金持ちも貧乏人も、日本人は桜が大好きだから、一人ひとりバラバラになってしまったドラマの背景として、桜は必要なのであろう。
それにしても、ソメイヨシノの花というのは、確かに綺麗なんだけど、新しいものは生み出せない花であるというのもゾクっとくる話だ。
それは、刹那の間、人間の目を楽しませるだけの花なのである。
日本人の桜好きが、将来への不安の裏返しとか、何かイヤな事の伏線とかじゃなければいいと思うのだが。
まさむね
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