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2009年3月 2日 (月)

風太郎の苦悶をあっさり超えてしまう時代

先日、NHKスペシャル「職業詐欺」の再放送を見た。

いわゆるオレオレ詐欺のドキュメンタリである。



彼等は詐欺グループを作り、老人を狙い撃ちにして金を巻き上げる。

許しがたい犯罪だ。



しかし、グループのメンバーの中には職も住所も無い若者が多数いるらしい。

彼等は、ある面、社会に追い詰められて、やむなく犯罪に手を染めるという側面もある。

勿論、それは許しがたいことではあるが、こういった犯罪を減らすには、追い詰められた若者をなるべく生み出さないような社会を作るという事も大事なことだと考えさせられた。



一方、そういった組織のトップの良心の無さにも驚かされた。

騙されたお年寄り達を、明らかにバカ者扱いにしていた。

彼等は、電話の向こうで泣いているお年寄りを笑い話にするという。



ようするに、彼等にとっては騙される方が悪いのである。

世の中、金が全てなのだ。



それに対して、番組のナレーションでは、金でしか幸せを得られないかわいそうな人々というような言い方で彼等を非難していたが、おそらく、その言葉は彼等には効かないだろう。

金が全てと思っている人間に、それは本当の幸せではないと言ったとしても説得力を持ちえるのだろうか。

しかし、もしかりに、そういった価値観の若者(彼等はバブル真っ盛りに生れている)が増えているとしたら、それは恐ろしいことだが、ある側面では大人たちの自画像でもあるのかもしれない。



さて、「銭ゲバ」である。

主人公の蒲郡風太郎は、大手造船会社を乗っ取って巨万の富を手に入れる。

しかし、そこに待っていたのは、幸せではなかった。

今まで、「世の中全てが銭ズラ」と言い張ってきて、手段を選ばず金に執着してきた風太郎は、葛藤する。



ドラマの展開として、風太郎の内面の動きは凄くよくわかる。

僕ら、視聴者にとって、風太郎が苦悶するところに、物語のバランスを感じるのは、自然だ。



しかし、先ほどのオレオレ詐欺グループにしてみれば、この自然さ、つまり風太郎の苦悶は、むしろ「ありえね~」ものなのではないだろうか。

だとするならば「銭ゲバ」は、現代社会を映す鏡としては、かなり「ヌルい」ものになってしまっているのかもしれない。

本当のリアリティを追求するならば、人を殺そうと、騙そうと、平然と「銭ズラ」とうそぶく風太郎という選択肢もあったのかもしれないのだ。

しかし、それではドラマにならないではないか。



フィクションをあっさりと超える現実に、僕らは耐えていけるのだろうか。



まさむね

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