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2009年3月23日 (月)

青春ドラマとしての「ヴォイス」のユニークさ

フジテレビ月9ドラマ「ヴォイス」最終回を見た。



以前にも月9ドラマ「ヴォイス」における推理と青春の緊張関係というエントリーで指摘したことだが、この法医学ゼミを舞台にした青春ドラマは、通常の青春ドラマとは少し違う作りになっている。



通常の青春ドラマには一般的に2つのパターンがある。

一つは、主人公がいろいろな悩みをかかえ、内面的な問題がドラマに大きくかかわっているようなドラマだ。

例えば、昨年放映された「ラスト・フレンズ」。タケル(瑛太)、ルカ(上野樹里)、ミチル(長澤まさみ)達はそれぞれ内面的な問題をかかえており、その問題点が物語を動かす重要なポイントとなっていた。

しかし、今回の「ヴォイス」では主人公の加地大己(瑛太)には悩みとよばれうるようなものがない。というよりも、「内面」自体がないようなのだ。

他の登場人物が全て、それぞれの物語(法医学を学ぶようになった必然性)や過去を持っているのに対し、大己に関する過去や家族はほとんど話中には出てこなかった。

唯一、子供の頃に地下鉄事故に遭遇し、その現場で、若き日の佐川先生(時任三郎)と会話し、その時に、佐川先生に法医学者としての才能を見出されているというエピーソードが出てくるのである。

以前もそのシーンは出てきたのだが、最終回、大己は佐川先生からその事を伝えられる。

さらに、その時、逆に、大己の言葉によって佐川先生が法医学者へ進もうと決心したという事実も聞く。

しかし、その事を聞かされても、大己はほとんど何の感慨も持たない。

彼が、何故、佐川先生に半ば強引に法医学の道に誘われたのかという重要な事実の前にしても、彼は特に関心を示さないのである。

つまり、本質的に大己は変人なのだ。



大己は、目の前の些細な疑問には過剰に食いつくのであるが、そういった自分に関する大きなことに対して、あまり関心がないようなのである。

それが、このドラマをユニークにしている大きな点だとおもう。



先ほど、青春ドラマには2パターンあると記したが、もう一つが、主人公が至極普通な性格なのに、周りの人物に変人が多く、時として主人公が振り回されるというパターンである。

例を上げるとしたら、「鹿男あおによし」だろうか。主人公の小川先生(玉木宏)はごく平凡な高校教師であるが、様々な謎の登場人物や事件に巻き込まれてゆく。また、「のだめカンタービラ」における千秋真一(玉木宏)のポジションも似ているかもしれない。

(おそらく、玉木宏という役者はそういった立場がハマリ役なのかもしれない。)



しかし、この「ヴォイス」は大己自身が変人のため、この2つ目のポジションからも大きくはずれているように思える。

       ★

それでは、この「ヴォイス」を青春ドラマとして成立させている鍵は何なのだろうか。

これはあくまでも仮説ではあるが、おそらくこのドラマは、多くの視聴者が遠い過去に置いてきてしまった「卒業という思い出」とシンクロするように作られているのだ。

青春時代の思い出は、いつだって美化されるものだ。

だから、このドラマに出てくる人々はみんないい奴である。ズルい人も嫌な奴も出てこない。それは現実世界を描いているとするならば、リアリティが無いと批判されそうであるが、思い出ドラマならば、それでいいのである。



そして、多くの場合、何かをした思い出というよりも、何も出来なかった思い出なのである。



好きだった女の子とは上手くいかなかった思い出、しておけばよかった勉強をしなかった後悔、もてあますような時間を無為に過ごしてしまった時間、そういった無駄の記憶こそ、青春の記憶というものではないだろうか。



ドラマの最後の方でゼミの5人がゼミ終了記念の飲み会の後、花見をするために公園のようなところに行くが、まだ桜が咲いていなかったというシーンが出てきた。

こういったくだらなく小さな思い出の集積こそが、青春の思い出というものなのだ。

そういう意味で、大己と佳奈子(石原さとみ)、亮介(生田斗真)と夏井川先生(矢田亜希子)が曖昧な関係で終わったことに、思い出というもののリアリティを十分感じることが出来た。



もう一度、観たいかと言われればそうでもないが、観てよかったというドラマではあったと思う。



まさむね

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