今日も生き続けている「銭ゲバのリアリティ」
「銭ゲバ」最終回は、ある意味、意外な展開だった。
自殺という結末だけは避けると思っていた(「銭ゲバ」最終回予想)のだが、全く裏をかかれたからだ。
以前も書いたのだが、僕は、昨今のテレビドラマの最低限の倫理観として「自殺の禁止」という線があると感じていたのだが、その線があっさりと越えられたという事が意外に感じられたのだ。
しかし、結果としては、それでよかったのではないかとも思う。
ドラマが日常社会の倫理(空気)にしばられて自由な表現が自主規制されるというのは、されでそれで問題だからだ。
言うまでもなく、ドラマはあくまでドラマ、フィクションである。
出来るだけ「創造=想像の可能性の枠」は広いほど良いに違いないからだ。
そして、その風太郎(松山ケンイチ)の自殺であるが、人生に絶望しての自死というよりも、今まで自分が殺してしまった人々に対する「私刑」の意味合いの強い死であったことも確かだ。
製作者側に、倫理的に純粋な自殺ではなく、贖罪としての死ならば、視聴者の許容範囲ではないか、という読みがあったのかもしれない。
さらに、一方で風太郎の「銭」のおかげで、荻野(宮川大輔)の妻の命は助かったし、定食屋・伊豆屋の面々は借金地獄から抜け出せたのだ。
彼等の最終回での安堵の表情は、このドラマの救いになっていたことは確かである。
さて、ここで最終回の流れを今一度、追ってみよう。
子供の頃、不幸のどん底で金持ちになって幸せになる事を誓った小屋で、ダイナマイト自殺をはかる風太郎の脳裏に「幸せになった」風太郎の物語が流れる。
それは、本当の幸せとは何かということを考えさせる情景だ。
人はあらゆる可能性を持って人生という道を歩く。
その人生の道は、実は、幸せの世界へも、不幸への世界にも繋がっているということなのだ。
しかし、風太郎は、結局、不幸の道を歩いてしまったということなのである。
そして、最後に死の直前で風太郎はつぶやく。
最後まで風太郎は風太郎として意地を張り続けたのだ。
わかったよ。わかったって。
俺はもう死ぬよ。
それが望みだろう、お前らの。
消えてやるさ。
でもな、俺は間違っていたとは思わない。
これっぽっちも思わない。
確かに俺は人殺し、犯罪者だ。
地獄に落ちてやるよ。
ただな、俺は思うズラ。
この腐った世界で、平気な顔してヘラヘラ生きてる奴の方が、よっぽど狂ってるズラ。
いいか。
この世界に生きている奴はみんな銭ゲバだ。
お前らは気付かんで、いや、気付かんふりして、飼いならされた豚みたいに生きてるだけの話ズラ。
そいでよきゃ、どうぞお幸せに。
ただ、俺は死んでも、俺みたいな奴は次々生れてくるズラ。
そこらじゅう、歩いてんだぜ。銭ゲバは。
じゃあね。
そして、風太郎はダイナマイトもろとも吹っ飛ぶ。
近くで見守っていた緑(ミムラ)の足元に1円玉が転がり落ちる。
その1円玉は、第1話の冒頭で、走ってくるトラックの前で、風太郎が拾った1円玉だ。
(左絵は、その時風太郎が拾った1円玉)
銭ゲバの象徴としての1円玉である。
奇しくも、その1円玉の製造年は昭和四十五年。
(第1話で風太郎が拾った1円玉も同製造年だった)
この原作の「銭ゲバ」(ジョージ秋山)が少年サンデーに連載された年の1円玉なのである。
大阪万博が開催されたこの年、高度経済成長の絶頂期に生れた「銭ゲバのリアリティ」は、実はあれから約40年後の今日までも生き続けているということなのか。
「人類の進歩と調和」を謳いあげた万博の夢は、何だったのだろうか。ルポライターの鎌田慧が『自動車絶望工場-ある季節工の手記-』で表した70年代の労働者の最低な生活と現代の派遣労働者、何がどう進歩したのであろうか。
この1円玉の製造年はそのような現実を表しているように思われた。
まさむね
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