「木更津キャッツアイ・ワールドシリーズ」最大の皮肉
木更津という土地はかわいそうな土地である。
アクアラインで川崎とつながったはいいが、逆に廃れてしまった。
観光客が来るかと思ったら、多くの住民がそのアクアラインを通って、神奈川、東京の方へ買物に出るようになってしまった。
それに伴って、それまで市の中心地にあったそごうや西友が撤退し、空洞化してしまったのである。
おそらく、多くの伝統的商店街は活気を失った状態なのだろう。
今日、放送された映画「木更津キャッツアイ・ワールドシリーズ」(2006年作品)はそんな木更津を舞台にした青春ドラマである。
★
テレビドラマシリーズ(2002年1月18日~2002年3月15日)においてぶっさん(岡田准一)が死んでから、早くも3年が経っている。それまで、まったりと退屈な時間を過ごしていた仲間は、既にバラバラになっている。
マスター(佐藤隆太)は、木更津の飲み屋をたたみ、大阪で屋台のたこ焼屋を、アニ(塚本高史)は秋葉原でIT関連(?)の仕事をし、ウッチー(岡田義徳)はどこかへいなくなっている。
一人、バンビ(櫻井翔)だけが木更津に残り、市役所の役人となっているのだ。
そして時は市長選挙の真っ只中。バンビは現市長(高田純次)の側近としてこき使われている。
その市長が木更津市内の空き地(森と草原)にショッピングモールを作ることを公約としているのだが、バンビは何故か気乗りがしない。
そんな時に、バンビは突然、天の声を聞くのであった。
「If you build it, he will come(それを作れば彼がやって来る)」
それはぶっさんの声(?)だった。バンビは一念発起し、マスターとアニを木更津に連れ戻し、なんとか「それ」を作り、死んだぶっさんを呼び戻そうとするのであった。
そして、ぶっさんがいう「それ」が野球場だということに気付いた3人は、市長がショッピングセンターにしようとしていた空き地に必死に野球場を作る。
そして、遂にぶっさんをこの世に復活させ、その野球場で(女子野球チームと)試合をするのである。
まぁ、他にもキャッツアイ独特のゴチャゴチャした話は沢山あるのだが、はしょって言えばこんな感じで試合が進み、試合は延長10回表、バッターボックスには強打者の杉本文子(栗山千明)が立っている。
そして、マウンドに集まるメンバー達...
そこでぶっさんと他のメンバーとの意見が割れる。
みんなは「普通」に考えて敬遠をしろという。
ぶっさんは絶対に勝負だという。
ここでみんながフッと気付く。
ぶっさんはもうこの世の人間ではないのだ。
自分達はぶっさんの意見に振り回されないで、自分自身の生き方をしなければならないということを。
そして、アニはついに、ぶっさんに「もう帰ってくれ」と言ってしまう。ある意味、この映画のクライマックスシーンである。
確かに、ぶっさんが生きていた時代は、みんなが一番楽しかった時代、みんなが一番輝いていた時代だ。
でも、もう、その時代は過ぎた。まだ「何にもなっていない」ジモティ仲間の馴れ合いのまったりとした時間はもう戻らないのだ。
そりゃあ、ぶっさんは死んでしまったから(逆に)いいゼ。
でも、俺達は、最高の時代が終わった後でも、現実的で「普通の」時間を「普通に」生きていかなくてはならない。彼等は一斉にその事に気付くのだ。
そして、試合は終わった。杉本文子の打ったホームラン性の打球を追って、ぶっさんはまた森へ帰っていってしまったのだ。
後で、ぶっさんを追って森に入っていった面々は、森の中で「ばいばい」と書いたボールを握りしめているキャッチャーミットを発見して呆然とするのであった。
過ぎ去った青春時代を思い出す時に、どこからともなく吹いてくる、あのさわやかで、しかも切ない風を感じる一瞬。
これがこの「木更津キャッツアイ・ワールドシリーズ」の第一のテーマである。
★
そして、二つ目のテーマは...
ぶっさんは木更津という土地に帰ってしまった。それはまさしく、土地の守護霊のように。
その守護霊は、木更津という土地をあくまで、そこに住む人々のための土地であってほしいと願う。そして、いつまでも自分の事を忘れないでと願う。
もっと言えば、ここで、ぶっさんは、いや、地霊は、空いた土地だからといって、目先の利益を追って、ショッピングセンターにしようとする浅はかな資本主義を批判しているのだ。
木更津の土地を木更津の人々のために使うこと。いつまでもここが何処でもない、木更津だってことを忘れないでほしいと願うこと。
だからこそ、ぶっさんの霊は、大阪や東京に行ってしまったマスターやアニを見守り、結局は、彼等を再び木更津の土地に呼び戻したのだ。
逆にいえば、彼等は、ぶっさん(土地の霊)のおかげでまた戻ることが出来たのである。
★
実は実際、木更津市では、イオン木更津ショッピングセンターの建設が頓挫しているのである。
まさしく、この「木更津キャッツアイ・ワールドシリーズ」で描いた状況が現実に起こってしまっているのだ。
当初は2007年か2008年に、木更津市郊外の新日本製鉄の所有地(埋立地帯遊休地60h)に開店するはずだったショッピングセンターが、いまだ建たない。
wikiによると、「現段階(2009年2月現在)では建築許可でさえ取得されていないため、明確な開業時期は明らかにされていない。」とのことなのである。
詳しい事情はわからないが、この映画を見た後では、ぶっさん(土地の霊)が建てさせないのでは?との錯覚さえ覚える。
まさに、シンクロニシティである。
確かに、イオンショッピングセンターが出来れば、市は活気付くかもしれない。しかし、それは、木更津がまた一歩、木更津ではなくなってしまうことも意味する。
日本中、どこにでもある凡庸な土地になることを意味している。
そんな結論は目に見えているのだ。
この映画は、そんな木更津の凡庸化に対して土地の霊が待ったをかける物語ではないのだろうか。
ところが、この映画番組の提供はイオンだった。こんな皮肉はあるだろうか。
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また、もう一つ加えれば、この映画はディズニーリゾートも提供に名を連ねていた。(ちなみに、ぶっさんがミッキーマウスのトレーナーを着ていた。)
全世界の誰でもが楽しめるグローバルスタンダードな遊戯施設、それがディズニーランドだ。
若干の悪意を込めていえば、千葉県にある東京ディズニーランドは、千葉という土地を千葉らしくなくしている象徴たる場所である。
もしも、千葉の地の霊というものがいれば、最も忌み嫌ってしかるべき場所なのである。
木更津から木更津臭を排除しようとしているイオンと、千葉を最も千葉らしくなくそうとしているディズニーが、「千葉、そして木更津の土地の霊の叫びを主題とする映画」のスポンサーをしているという皮肉。
おそらく、そのネジレこそが、今日の「木更津キャッツアイ・ワールドシリーズ」の最大のテーマではなかっただろうか。
まさむね
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