まさむねが勝手に再編成した「Let It Be」とは?
ロスジェネ論壇の旗手・東浩紀が『動物化するポストモダン』等の著作で、今世紀に入って、映画やアニメや小説などのユーザーの享受の仕方が物語消費型からデータベース的消費に移ったというようなことを言っている。
ようするに、今までは、ある作品における物語的な側面にばかり批評が傾きすぎていたという批判だ。
確かに、その通りかもしれない。しかし、僕達のようにトウの立った世代の人間は、いまだに物語にこだわってしまう。それどころか過剰に物語を読み込んでしまう。そんな性根が捨て切れなくて、もう50歳になろうとしいるのに、恥ずかしながらまだ、その「意味という病」に取りつかれているのだ。
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ビートルズをめぐるいくつかの永遠のテーマがある。「ホワイトアルバムを一枚にするとしたらどういう編成にする?」とか「ジョージにとってインド音楽とは何だったのか?」とか「ビートルズ解散にオノ・ヨーコはどういう役割を演じたか?」等など。
そしてその中に「アルバム『Let It Be』の編成、自分だったらどうする?」というのがある。
ご存知の通り、アルバム『Let It Be』は、1969年の初頭、いわゆるゲットバックセッションという「地球史上最悪なセッション」(ジョン談)で弾き散らかされたビートルズの音源を当時売れっ子のプロデューサ、フィル・スペクタがアルバムとして作り上げた作品である。
発売後にポールが「The Long and winding road」のアレンジを嫌悪したというのは有名は話である。
そして、それから約33年後に、ビートル達の当初の意図を汲み取ってライブに近い形でリミックスして出来上がったのが「Let It Be... Naked」というアルバムだ。勿論、これはこれで賛否両論を巻き起こした。
そこで、永遠に決着がつかないのならということで、僕も誠に勝手ながら、「Let It Be」を自分なりに構成してみた。
このエントリーの冒頭にも書いたように、僕は過剰に物語を読み込むタイプの人間だ。
その(悪?)趣味からすれば、この「Let It Be」は、ビートルズがその解散劇を一つの作品としてドキュメンタリタッチに表現した作品にすべきだと考えている。
音に関して、具体的に語ることは難しいし、その力もない。だからあくまでドキュメンタリとして曲順にこだわってみた。(歌詞はいつもながら内田久美子訳である)
それが以下のラインアップである。
1.Dig a Pony
2.Dig It
3.Across the Universe
4.For You Blue
5.Get Back
6.I Me Mine
7.Two of Us
8.Maggie Mae
9.One After 909
10.I've Got a Feeling
11.The Long and Winding Road
12.Let It Be
まずは、「Dig a Pony」これはジョンのヨーコに対する熱愛ソングである。Dig(掘る)A PONY(プリティ・オノ・ヨーコ)というようにも深読み出来るこのタイトル。身も蓋もない言い方を許していただけるのならば、次の「Dig It」とともに、「俺の関心は、ヨーコとのセックスしかないよ」というジョンの身勝手な宣言ソングなのである。だから、オープニングにはこの2曲が来る。
さらに、ジョンの一人の世界は続く。確かに名曲ではあるがこの「Across the Universe」、
Nothing's gonna change my world
何ものも僕の世界を変えることはできない
ようするに「誰も俺の世界に入ってくるな」ってことである。
そして次に来るのは「For You Blue」。勿論これはジョージの曲であるが、映画「Let It Be」を観る限り、その主役はやはりスライドギターを弾くジョン、そして彼にはべるヨーコである。それにしても、ジョージの楽曲にジョンがマトモに、参加したのはいつ以来だろうか。
さて、そんなジョンとヨーコの熱々ぶりに、嫌気がさし、しかし、どうしても昔のように戻って欲しいのがポールだ。「Get Back」の中で「Get Back Jo-Jo」と叫ぶフレーズがあるが、ここでいうJo-Joは勿論、ジョンのこと。それは次回作「Abbey Road」のオープニングの「Come Together」の最初の歌詞の「He got Joo Joo eyeball」と通じている。
さて、そんなジョンとポールのそれぞれの身勝手に嫌気がさしてきたのがジョージだ。「I Me Mine」でこう叫ぶ。
Ime me mine, I me me mine, I me me mine, I me me mine
俺が俺が俺がと自分のことしか考えない
というわけである。
そして最悪の状態は次の「Two of Us」へ。ご存知の通り、この楽曲の演奏中にポールとジョージが激しい口論になるのだ。しかし、その歌詞の中でポールはまだジョンに対する未練を歌う。
You and I have memories
Longer than the road
That stretches out ahead
君と僕には思い出がある
僕たちの前に続く
はるかな道のりよりも長い思い出
そしてその長い道のりを振り返るのが次の2曲「Maggie Mae」と「One After 909」である。
実はこの「Maggie Mae」はポールがはじめてジョンと出会った1957年のセントピーターズ教会でのコンサートでジョンが演奏した2人にとっては思い出の楽曲、そしてビートルズにとっては思い出の土地、リバプールそのものの歌なのである。
さらに、「One After 909」。これはビートルズがデビューする前にジョンとポールが2人が作った楽曲だ。
I said, "Move over" once, "Move over" twice
"Come on, baby, don't be cold as ice"
もうちょっと席を詰めて 隣にすわらせてくれ
氷みたいに冷たくするのはよしてくれ
歌詞の中では男の子が女の子に語りかけるこの部分、このタイミングで聴けば、ポールがジョンに語りかけるようにも聴こえるではないか。そして、「One After 909」で、電車に乗り遅れたドジな男を歌った後、ポールが「I've Got a Feeling」でこう歌うのだ。
Oh, please believe me
I'd hate to miss the train, oh yeah
正直なところ
汽車に乗り遅れたくないんだ
そして、遂にポールの決心の瞬間が訪れる。それが「I've Got a Feeling」(ある感情が僕を捉える)瞬間なのである。
I've got a feeling
A feeling deep inside, oh yeah, that's right
I've got a feeling
A feeling I can't hide, oh no
I've got feeling, yeah
ある感情が
胸の奥に湧き起こる
この感情を
隠しておくことはできないよ
ある感情が僕を捉える
この劇的な瞬間、僕的に解釈すれば、それはもう我慢の限界、ビートルズを辞めるっていうポールの心情だ。
しかし、そんなポールの感情を無視するかのように、ジョンのパートは以下のように冷たく歌われる。
全てが過去形なのがさらに哀しい。
Everybody had a good year
Everybody let their hair down
Everybody pulled their socks up
Everybody put their foot down
誰にでもいいことがあったし
羽目をはずすときもあった
みんな本気で取り組んで
頑張ってきたんだ
そして、遂に「Let It Be」のクライマックスが近づく。それでもジョンとの別離に涙にぬれてたたずむポールがそこにいた。
それが「The Long and Winding Road」の未練がましさ...
But still they lead me back
To the long winding road
You left me standing here
A long, long time ago
Don't keep me waiting here
Lead me to your door
けれど結局 ここへ戻ってきてしまう
長く曲がりくねったこの道
君はここに僕を置いていった
遠い昔のことだ
いつまでも待たせないで
どうか君の扉へと導いてくれ
そしてこのビートルズ解散ドキュメンタリの最後を飾るのが、タイトル曲でもある「Let It Be」である。最後にポールは、なるようにしかならないという心境にたどり着くのであった。
Let it be, let it be
Ler it be, let it be
Whisper words of wisdom
Let ti be
何事もあるがままに
無理に変えようとしてはいけない
知恵ある言葉をつぶやいてごらん
あるがままに
以上、これが僕がプロデューサだったらという仮定に基づく誠に勝手な「Let It Be」の編成だ。
是非、みなさんもご検討ください。
まさむね
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