「ぼくの妹」は日曜日の夜に放送するようなドラマか?
TBSの日曜劇場「ぼくの妹」が僕の興味をひきつけ続けて止まない。(「双子の妹を持つ僕にとっても気になる『ぼくの妹』」)
決して「面白いよ」と勧めるタイプのドラマではないのだが、ドラマで描かれている世界と、こちらの現実世界との距離が微妙に他のドラマとは違う、とでも言うべきか、ユニークなのである。
例えば、今クールのドラマとして、「クイズ・ショウ」や「Mr.Brain」等は、シナリオがあって、それを役者が演じて、それをカメラで撮影して編集してという流れが透けて見えるのに対して、この「ぼくの妹」はそういったアチラの制作構造を上手く隠しているのだ。
ごめん、わかりにくいよね。簡単に言えば、画面の向こうにもう一つ別の世界が存在している感じが強いというのか、その世界の一部をとりあえずカメラで切り取りましたという感じがするのである。
ごめん、まだわかりにくいよね。ようするに、それってストーリーがストーリーになっていないということ、少なくとも、テレビの連続ドラマ的ではないということなのである。
例えば、「クイズ・ショウ」では、最終回に向かって、多分、MC神山(櫻井翔)とディレクター本間(横山裕)、プロデューサー冴島涼子(真矢みき)、謎の美少女(水沢エレナ)の過去の関係が段々解明されていくんだろうなというような大筋が読めるし、「Mr.Brain」では、毎回、脳科学者の九十九龍介(木村拓哉)が事件を解決してくんだろうなという展開は当然、期待できる。
しかし、「ぼくの妹」はそういった予定調和的な展開を裏切り続けるのだ。現時点ではこの先どうなっていくのかの大筋も読めないのである、少なくとも僕には。話がその都度発生する任意の出来事にどんどん引きずられていく感じがするのである。
優秀な外科医(オダギリジョー)がふとしたことで知り合った女性(ともさかりえ)と関係を持ち、借金を迫られ、それが嘘だとわかり、その女性はビルの屋上から飛び降り、その女性の彼氏(千原ジュニア)に恨まれ、それを晴らそうとする過程で知り合った親切なおじいさん(大滝秀治)が実はその彼氏の父親だということを知り、さらに、その彼氏と自分の妹(長澤まさみ)が寝てしまう...ようするに話が蛇行しながら進む感じなのである。しかし、この展開は、現実の世界と似ていて、妙なリアリティがあるのだ。
そして、その世界に翻弄されるオダギリジョーに妙な親近感を抱いてしまうのである。その昔、オダギリは、クレジットカード(ライフカード)の宣伝CMでも、会社の上司や彼女等に翻弄される役をやっていたが、元々、翻弄キャラなのだろう、オダギリって。
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わけのわからない男{妹の不倫相手・瀬川欽也(田中哲司)}や女{病院の理事長の娘・大河原春菜(笹本玲奈)}に好意を寄せられたり、こうあってほしいと願っている妹(長澤まさみ)が全くその通りに動いてくれなかったり、勝手な勘違いである男(千原ジュニア)に逆恨みされたり、しかし、その男が妹と寝てしまったりと、そういった思うようにならない現実の不条理に振り回される、ある意味、カフカ的な嫌~な感じ、それがこの「ぼくの妹」の主題なのだろうか。
そういえば、この作品の脚本を手掛ける池端俊策は、元々今村昌平の脚本助手をしていたというが、カンヌでパルム・ドールを受賞した今村の『うなぎ』で、主人公(役所広司 )がある男(柄本明)に、凄く、嫌~な感じでつきまとわれるシーンが出てくる。それは、この『ぼくの妹』の嫌~さ加減と共通しているようにも思えるのだ。ただし、僕は、この「嫌~な感じ」は嫌いではない。勿論、好きでないが、社会派作品独特のリアリティとして十分認めたいと思うのである。
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しかし、この嫌~なドラマが「明日から頑張るぞ」と張り切る多くの善男善女がテレビの前に座る日曜日の夜に放送するような代物だろうかという疑問がないわけではない。いや、当然ある。そして、こんなところにも迷走するTBSの昨今の編成の乱れ(「TBSの断末魔こそ、今のテレビで最高の見世物だ」参照)が垣間見れるのだ。
ちなみに、この時間帯の居心地の悪さを含めて、このドラマを楽しめてしまう僕って相当、嫌~な奴だなぁと自分でも思う。
まさむね
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