名著「日本の難点」に見られる一瞬の愛しい取り乱し
宮台真司先生の『日本の難点』(幻冬社新書)は、さすがに面白い。
前の『14歳からの社会学』(世界文化社)も名著だったが、この本も素晴らしい。
おそらく、宮台氏と僕とが同じ世代に属するというところが共感する部分が多い原因だと思うが、こちらがぼんやりと考えていることを見事に文章にしてくれている。
特に、日本の年金、農業、失われ行く「日本」に対する問題意識、政治、民主主義に対する卓越した論理的な思考は、当代随一だと思う。
しかし、ここでは、敢えて一つだけ、疑問を提出させていただきたい。
第五章の「日本をどうするのか-日本論-」、ここには現在の日本のいくつかの問題点を列挙されている。
後期高齢者医療制度、裁判員制度、秋葉原事件、農業、日本のエリート論...それぞれ重要な問題提起と提言がなされているのだが、その中に、『「環境問題のウソ」はホントか』と題するパートがあるのだ。
そこによるとこう書かれている。
最近「環境問題のウソ」を暴く本や言説がブームです。僕は爆笑します。「温暖化の主原因が二酸化炭素であるかどうか」はさして重要ではないからです。何故なら、環境問題は政治問題だからです。そうである以上、「環境問題のウソ」を暴く本が今頃出てくるのでは、十五年遅すぎるのです。
なるほど、確かに、既にいわゆる京都議定書の段階で、環境問題は政治問題となっており、今更、「環境問題のウソ」を言い立てても無駄と言えば無駄かもしれない。それはそうだ。
しかし、僕が??と思うのは、そういったいわゆる反環境本(例えば、武田邦彦「偽善エコロジー」等だと思うが)が若干売れているという事実が、その他の農業問題や、医療問題に比べて、それほど大きな問題か?ということなのだ。
別に、「あっそういう問題意識ってのもあるんだよね」程度の話ではないのか。僕も、例えば、民主党の子育て支援で大家族モノ番組はどうなる?という問題提起wwwをしたりしているのだが、自分で言うのもなんだが、その大家族モノ危機問題は実にくだらない。世の中、いろんな問題があるのだが、その中の優先度からすれば、全くどうでもいい問題である。まぁギャグのつもりで書いたんだけどね。
勿論、宮台氏の提起される問題は大家族モノ問題よりは明らかには重要ではあるのだろうが、その他の「日本の難点」に比べれば、とるに足りないことではないのか。僕は、軽くスルーすればいいものを敢えて、ここでこうして上から目線で叩くという姿勢、宮台氏が「僕は爆笑します。」というスタンスに、苦笑してしまう。どこか取り乱した印象を与えるからだ。
裏読みすれば、かつて援助交際女子高生を擁護する論陣を張った宮台氏が、実は、それはある面、プライベートなお友達擁護だったと同様に、この「環境問題のウソ」言い立て問題も、環境問題を政治問題としてではなく、(南洋の島とかに取材に行って)正面から扱う「お友達」を援護射撃しているのではと勘ぐってしまうのだ。
それに、敢えて、宮台氏とは逆の見地に立てば、国際政治的には決着がついた環境問題ではあるが、そこには、もしかしたらせっせと分別ゴミを出し続けるっていうのは、政府(環境省)に騙されているにすぎないんじゃないかっていう問題意識も、それは、マスコミも含めた権力側が無批判に押し付けてくる価値に対して、盲従するのではなく、一定の距離を置く契機としてであれば、僕は一理アリだと思う。また、環境問題が政治問題だとするならば、逆に、ベタに環境問題に取り組んでいる人たちも、「わかっていない」という意味で爆笑モノではないのだろうか。さらに言えば、既に国際間で「決着」がついている原爆保有問題に対して、今更、反原爆運動することも爆笑モノになってはしまいかねないのではないのか。
まぁ、名著の中に、サラリと紛れ込んだ「取り乱し」。
それはそれで、誠に人間らしい愛らしいパートではある。
まさむね
« 「ぼくの妹」に共感してしまう説得が苦手な僕 | トップページ | 三沢光晴が死亡。僕の90年代は終わった。 »
「書評」カテゴリの記事
- 「韓流、テレビ、ステマした」が前作よりもさらにパワーアップしていた件(2012.07.14)
- 「ものづくり敗戦」という現実を僕らは正視しなければならない(2012.07.19)
- 検索バカとは誰のことか? ~『検索バカ』書評~(2008.11.17)
- この本は格差論の本である。 ~『ブログ論壇の誕生』書評~(2008.11.17)
- 闘っている女性は美しい ~『女の読み方』書評~(2008.11.18)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント