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2009年6月 6日 (土)

中沢新一の天皇論への違和感と僕の憂鬱

太田光と中沢新一のベストセラー対談「憲法九条を世界遺産に」を読み返してみた。太田光の知性は80年代ポストモダンの旗手の一人、中沢新一を相手にしても一歩も劣らない。

彼はしかも、テレビタレント、あるいは漫才師という、学識や哲学とは全く別の芸能者としても超一流というのだから、恐れ入る。

先日のエントリーでも書いたが、そんな彼に凡庸なバラエティ芸人の話相手をさせる「キズナ食堂」という番組は、何を考えているのだろうかと思わざるを得ない。



まぁそれはともかく、今回読み返した「憲法九条を世界遺産に」であるが、僕は中沢新一の次の発言にちょっとひっかかってしまった。ちょっと長いが、引用してみよう。それは太田が中沢に、女性天皇について尋ねた次の答えの部分だ。(133ページ)

男系相続が天皇制の本質を決めているかというと、違うんじゃないかと思います。天皇制そのものが、時代ごとに性格をごろっと変えていますしね。中世の天皇制と今の天皇制ではこれが同じ天皇制かと思うくらい違いますし、江戸時代の天皇制、明治時代の天皇制も今とは違う。それくらい柔軟に性格を変えてきている。その中で男系相続と、伊勢神宮の儀式だけが変わらず残った。しかしこの二つだけをとらえて、天皇制の不変の原理と語ってしまうのは少し違うんじゃないかと、僕は思っているんです。

男系相続だけで天皇制の本質を通してしまったら、天皇制自体がすごく貧しくなるんじゃないか。歴史を通してこんなにも現実に柔軟に対応してこられたというのは、きまった本質というものがないからじゃないでしょうか。矛盾をあわせのむトリックスターみたいなものですね。お笑いの本質にも近いところはあります。その意味では、天皇制というのは、巨大なトリックスターです。その本性はお笑いだと僕は思っているんだけれど、それくらい柔軟に生き抜いてきたものの本質を、男系だけで決定はできないだろうと思っています。つまり、女性天皇もありです。


中沢氏は、天皇制を一見尊重しているようだが、伝統というものの危うさ、あるいは脆さというものにどれだけ自覚的なのだろうか。あるいは、それを知っていて敢えて、天皇制にある意味、賛成しながら、究極的には天皇制そのものをなくそうとしているのだろうか。

彼がいうところの、天皇制が歴史的に様々な変遷をしてきたというのは理解できる。また、天皇制自体がトリックスターであるという発言もある意味、そうだと思う。また、大人計画の舞台「ゲームの達人」に出てきた宮藤官九郎扮する天皇仮面を例に出すまでもなく、天皇制ほど、お笑いにして可笑しい存在はいないというのもわかる。

しかし、僕が違和感を感じるのは、中沢氏の発言には、歴史の中で、天皇制を必死に守って来た愚鈍なほど素朴な人々の意思の強さというものが急激に崩れつつあるという危機感が感じられないことだ。さらに、彼の発言には、そうやって天皇制を守ってきた人々に対する尊敬の念が全く感じられないのである。

言うまでもないが、天皇制は日本オリジナルの共同幻想である。しかし、共同幻想というものは時にあまりにも脆いものだ。強固な存在にちがいないと思って、まるで子供のように、その周辺で、その存在を笑い、茶化し、はやし立てていると、ある日気づくと、その本体自体が丸裸になっているようなものではないのか。

だからこそ、いたずらに弄ってはいけないのだ。現代の価値観とは合わないからといって、作為的に動かしてはいけないのだ。

僕は個人的には天皇には、京都に帰っていただき、出来るだけ人目から隠れて神事に没頭するような存在でいて欲しいと思う。

大臣の任命、ましてや国体での挨拶などは、摂政がすればいい話だと思っている。

僕たちの俗的な価値観とはまるで違う価値で生きている人がこの国のどこかにいて、必死に僕たちのことを祈っていてくれている、そういう存在であって欲しいのだ。

そして、結果として、女性天皇が生まれてもそれはそれでいい。それは天皇家が決めることだと思うのだ。



勿論、それは難しいことかもしれない。そして時代は、古来からの伝統に対して、ますますタフになっていくだろう。

そして、そんな状況の中、古来残っている伝統が、強固に、しかも柔軟でありつづけることはさらに難しいことだと思う。

僕は、天皇制について考えると何故か、憂鬱になる。中沢新一にはそういった僕の憂鬱がわかるのだろうか。



まさむね

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