BeeTVをネタに、携帯電話と動画について考えてみた
BeeTVが開局してはやくも2ヶ月が経過した。
コーナーのひとつとしてAvexの音楽PV、2000曲の見放題サービスが始まって、益々好調のようだ。月額300円でこれだけバラエティに富んだ映像が見られるというのは確かに、他にはない。TVと名づけるだけのことはある。
ご存知の通り、docomoは来年よりLTE(Long Term Evolution)方式を採用したサービスを開始、また、KDDIも2012年には同方式を採用、最大100Mbpsの高速通信サービスが開始される。
また、ソフトバンクは当初は、HSPA+方式を採用、そしてゆくゆくはLTE採用の意向とも見られている。
いずれにしても、携帯電話は一気に高速通信が当たり前の世界に入っていくのである。そうなっていくと、当然、携帯電話で動画を見るというサービスが今以上に重要なる。これは自然の成り行きであろう。
勿論、そういった流れの先頭に立つという意味で、今回のBeeTVの開局があるわけであるが、現時点ではまだ、配信している各番組が実験中、手探りの状況にあると言ってもいい。
ただ、逆にそういった状況だからこそ、BeeTVは興味深い。本エントリーでは、そこから見える携帯電話における動画の適性、方向性を探ってみたいと思う。
【動画の有用性】
もともと、テレビのドラマの役割には、その内容を楽しむというだけではなく、話の筋を友人達と共有することによって、話題にするというある種コミュニケーションのネタとしての役割があった。
しかし、携帯電話の普及によって、友人達と気楽にコミュニケーションが取れるようになる。すると、ネタとしての連続ドラマの価値が徐々に下り、結局、連続ドラマの視聴率が下るという結果になってしまったのである。
そして、コミュニケーションツールとしての役割が低下すると同時に、ドラマのもうひとつの役割、すなわち有用性という面が目立つようになってくる。例えば、最近のドラマの随一の高視聴率ドラマ「Mr.Brain」では必ず、脳に関する豆知識が披露される。ちなみに、昨日の放送では微笑みの起源について語られていた。
さて、BeeTVであるが、そこで常にBest5の人気をKeepしているのが「KOI☆AGE~恋するアゲハ~」である。このドラマは、小西真奈美扮する雑誌のフリー記者がキャバクラに潜入してそこで様々な人間に遭遇するというドラマであるが、そこにはちゃんと、キャバ嬢達の悩み、髪形、作法などの情報が丁寧に描かれている。最近の若い女性のなりたい職業のひとつとしてキャバ嬢というのがあるらしい(もしかして都市伝説?)が、そういった層へに対して、「役に立つ」というニーズを満たしているようなのである。
また、その他のドラマにしても、「ラブコネクター~恋愛工作人~」「40女と90日間で結婚する方法」というハウツゥ物的な作品が並んでいるのである。
ただ、その中で「とっても甘いの~C'EST TRES DOUX~」というパリロケを敢行している香椎由宇主演のドラマがあるのだが、これはパリという世界の実感が薄いせいか、お金をかけた割には順位はそれほど高くないようである。
これは僕の仮説であるが、人は道具(機械)に対して抱く「使用役割イメージ」からなかなか抜け出せないものなのである。テレビは娯楽機、PCは仕事機、そして携帯は実用機としての強いイメージがあるうちは、携帯電話に対して、どこか役に立つことを期待するということもあるのかもしれない。また、一方で、日本ではPCがゲーム機として大衆化しないのは、その「使用役割イメージ」のせいかもしれないのだ。
【映像のリアルさ】
BeeTVの売りのひとつが、「テレビでは流せないものを携帯で」というものである。それはBeeTVの番組の中でも和田アキ子、小倉智昭といった大御所が何度も口にしている。僕としては、そういった大物達の次世代に対する責任として、こういった新しいメディアへ逃げ込むのではなく、テレビの可能性を広げるというところで頑張って欲しいという希望もあるのだが、それはしかたがないのかもしれない。とにかく、携帯はテレビに比べて「本当のこと」が流されるメディアという立場にあるのは間違いないところだ。
数年前にケータイ小説というのが大流行した。その時のキャッチフレーズが「実話をもとにした」というところにあった。『恋空』もその話が事実であるということが宣伝文句として使われていた。しかし、実際は「実話をもとにした」というキャッチフレーズは、それはそれで、「そういうフィクション」だったのである。しかし、これは功を奏し、ケータイ小説は大ブレークしたのであった。
今でもコンビニなどで、「本当にあった」○○話というような雑誌が所狭しと並べられているが、そういったマイナーな漫画誌にしても携帯電話にしても、いわゆるテレビや新聞というマスメディアが建前のみを語るメディアになっていく一方で、リアリティのあるメディアとしての役割を担っているのではないだろうか。
だから、地上波のテレビでは番組という形式に収まらない「破片のような」映像こそ、ここでは価値があるのかもしれない。
例えば、BeeTVの人気番組に東方神起やEXILEのMOOLOGという動画ブログがある。これは例えばメンバー達が控え室でトランプをするという程度の映像なのだが、それが携帯で見るとリアリティのある映像破片として見えてくるのだ。おそらく、地上波では没になるであろう「ただの」ダラダラとした日常、携帯電話だからこそ価値が出ているのだと思う。
そこには、『「ドキュメンタリ」という名前のウソの真実』=『あらかじめストーリーのある現実物語』ではないリアリティがあるといってもいいだろう。
【人間関係映像】
さらに、このMOOLOG(動画ブログ)の中をもう少し詳細に見ていくと気づくところがある。実は、これらの映像で面白いのは、彼等一人一人の個性(キャラ)が出るところでは実はない。東方神起なり、EXILEなりのメンバー間の人間関係が面白いのだ。キャラはある程度、自分で作れるものだが、人間関係は、創作物を超えた残酷さが映し出るものなのである。例えば、東方神起の楽屋でのトランプのシーン。トランプのあとで罰ゲームのシッペが行なわれるのだが、誰が誰に強くシッペをするのか、誰は出来ないのか...そういった本当に微細な感情に僕達は興味をそそられてしまう。
今後、いわゆるテレビ的格とは別の、真実の序列が垣間見られるような映像が配信されれば、人々は飛びつくような気がする。
【アップの多用】
携帯電話のデメリットのひとつは、明らかに画面の小ささというのがある。そして、ずっと携帯を手で持っていなければならないという不自由さがある。それゆえに、より映像を見やすいようにとアップの映像が多用される傾向がある。それはそれで仕方のないことだ。
おそらく、今後は一歩進んで、そのアップの多用を逆に利点として活用している番組が有効になってくるに違いない。
現段階のBeeTVではそんな番組に一番近いのは益若つばさのMOOLOGだと僕は思う。これは現代のカリスマヤンママモデルの日常生活をただ追っていくという番組なのだが、これが意外に面白い。彼女が着用しているブレスレットやペンダントが次々にカメラアップで紹介されて、彼女なりの言葉で解説されていくのである。
詳細に関しては僕は門外漢なので批評することはできないが、おそらく、彼女のフォロワーはそのひとつづつが有用な情報なのだろうし、同時に彼女の旦那でモデルの梅田翼、そして二人の間の息子との人間関係や生活の仕方が垣間見れて、それはそれで人間関係映像としても貴重なのだと思う。
そういえば、現在、アメブロ上位には、常に辻希美、杉浦太陽、藤本美貴、北斗晶、佐々木健介、ダルビッシュ紗栄子等の既婚者が名前を連ねるのは、生活の知恵を教えてくれるという有用性がありそうで、しかも同時に人間関係がわかりそうという要因があるのではないだろうか。
【テロップの使い方】
携帯動画番組はどこで見るか。おそらく寝る前のベッドの中、くつろいだソファでとかなのだろう。しかし、多くの人にとって、携帯の使い場所として重要なのが電車の中である。ただ、そこでは当然音が出せない。勿論、イヤフォンをしてという選択肢もあるが、それもわずらわしいときもある。そんなとき、完全字幕版というのは意外に嬉しい。まるで記事を読むように映像を楽しむことが出来るからだ。まるで逆の発想だが、そこでは、字が読めて、しかも絵としての映像も同時に楽しめるだ。
例えば、BeeTVの「鳥肌怨読棺(とりはだおんどくかん)」という国生さゆりが朗読する怪談話がまさにそれだ。テレビでは音のない状態は10秒とは作れないという。「テレビが壊れた!」というクレームが入ってしまうためだ。ただ、携帯に関しては、こういった楽しみ方も出来る。この「映像付読み物」も携帯ならでは、あるいは携帯の新しい可能性のひとつかもしれない。
【メジャーには厳しい】
BeeTVの当初の売りのひとつは、和田アキ子やみのもんた、小倉智昭といったテレビ界の大物が登場し、「本音」を語るというものだった。しかし、結果としてみると、それらの番組はそれほど人気があるようには思えない。実際に、その2つの番組がベスト5にランクインするというのはめったにないようなのだ。
テレビでは、一番、「言いたい事を言っている」というのを売りにしている面々だが、それはあくまで、テレビという制度内の話にすぎなかったのではないか。携帯電話というインターネットの世界に投げ出された彼等の声は、残念ながら「凡庸な年寄りの愚痴」にしかなっていないのだ。2chなどの匿名掲示板での辛辣な噂話に比べると誠に牧歌的なその老人達の戯言。BeeTVに人を呼ぶには彼達のメジャー感は重要だったのかもしれない。しかし、彼等の利用価値はそれだけだったのかもしれない。
和田アキ子の対談相手としてBeeTV「和田アキ子最強バトル!」に登場した太田光が必要以上にインターネットを嫌悪する理由がわかるような気がする。彼は独自の勘で、化けの皮がはがされる危険を察知しているのかもしれない。
【速報性への期待】
まずは速報性という問題。例えば、上記の東方神起のMOOLOGでは、6月中旬の大阪城ホールの楽屋の映像が6月の下旬にようやくアップされていた。編集、アプルーバル、エンコード、アップなどの手順はあるのは理解するが、2~3日後に見られれば、さらにリアリティが益したのではないだろうか。ニュースでは出来ていることだ。いろんな手順を省略すれば出来ないことはないと思われるがどうだろうか。
あるいは、正式版では様々な手順に2週間かかるとしても、例えば「ダラダラ版」などと称して、未編集映像を流すようなことは出来ないものだろうか。そちらも見る人は見るというスタンスであればアリだと思われる。
【尺の長さの可能性】
現在、docomoで流せる動画の容量は10MBである。そこで見るに耐えうる動画を配信するには、約5分程度の尺が適切だといわれている。それ以上になるとどうしても画質が劣化してしまうのだ。実際、BeeTVのドラマのいくつかは、10分近い尺のものがあるが、それによって画質が見るに耐えないものになっているものがないとは言えない。これが後にDVDとして販売することを踏まえた戦略というわけではないだろう。現時点ではここにひとつの限界がある。しかし、今後の、高速通信環境で、その制限は段々緩和されていくはずだ。
【物販との結びつき】
これも今後の課題だろう。映像を見せて、それをキッカケとしてものの販売をする。BeeTVでは実現していないが、今後、そういったサイトが増えてくるのは確実だ。自分にはそのノウハウ、アイディアはまだないが、今後、考えていきたい。現在、BeeTVというプラットフォームで一番、実現しやすいのは、AvexのPVのダウンロードビデオクリップとしての販売だろう。現在は勿論、ストリーミング配信だけだが、同時にビデオクリップ販売をすれば、ビジネスとして成立するような気もする。
そして、これは現時点では、テレビでは出来ない。携帯ならではの機能なのである。
【多様性への期待】
さらに、これもテレビでは出来ないことだが、例えば、東方神起のMOOLOGにしても、それぞれのメンバー各個だけにカメラが向けられ、それぞれがチャンミン編、ユンホ編、ジェジュン編...というような多用な選択肢を用意してもらうことは出来ないだろうか。同じ場面を別々のカメラで多角的に捉えるというのはマルチメディアでは最も得意な分野だと思われるが、今のところ、その可能性を生かしきった作品というものがないのが残念だ。
【インタラクティブ性への期待】
携帯電話とテレビとの一番の違いは、インタラクティブ性にある。これは当然のことだ。しかし、BeeTVではまだその機能が使われていない。
例えば、一つ企画を思いついた。それはこうだ。
多くのタレント達がある特定の有名人との思い出や体験を面白おかしく語る。あるいは、頭の中のイメージだけで似顔絵を描いてもらう。そして、その語られているのは誰だ?描かれているのは誰だ?というクイズを毎回出すのだ。そして、何人ものタレントに話を聞いていく(絵を描いてもらっていく)うちに誰かが判明していくというような仕掛けをつくってはどうだろうか。そして、最も早く正解を出したユーザーの中から何人かにプレゼントを出すという話にするのだ。
これならば、プレゼントという有用性と、タレント間の人間関係もわかったりする上に、ユーザーがインタラクティブに参加する事が出来る。
是非、ご一考をお願いしたいものである。
以上、BeeTVに関して、誠に勝手なことを書かせていただいたが、今後、携帯で動画という新たな未開拓分野での成長を、このBeeTVが引っ張っていって欲しいところである。
まさむね
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