「無徳なるもの」・高見盛と「浮世雲」・安美錦
枕草子の第百六段『無徳なるもの』(現代語訳=ぶざまなもの)の中にこんな一行がある。
「相撲に負けて入るうしろ手。」(現代語訳=相撲取りが負けて引っ込む後ろ姿)
今から千年も前から、負けて花道を下がる力士はこのように観られていたのだ。
おそらく、この「無徳さ」を現代に引き継ぎ、さらに、見世物にまで昇華しえたのが高見盛である。
勿論、勝って胸を張って花道を去る高見盛を観たいのは言うまでもないが、一方で、彼の「無徳さ」にも心弾かれる。
千両役者というのは彼のような関取のことをいうのだろう。
今場所は負け越してしまったが、来場所も、僕たちを楽しませてほしい。そして、いつまでも土俵に上がり続けて欲しい。
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今場所ある意味で、最も進歩したのが把瑠都であった。
四日目の栃の心戦、十三日目の翔天狼戦、千秋楽の琴奨菊戦と11勝のうち3勝を「つり出し」で勝っているのだ。
相手の肩越しにつかんだマワシをクレーンのように持ち上げ、そのまま相手を土俵の外に運ぶ。
把瑠都にしか出来ない大技だ。
オリジナルの型を持つ力士は強い。
横綱、大関との対戦成績が悪いのが気になるが、その紙一重の壁さえ破れれば、把瑠都に大関の声がかかるのもそう遠くはないに違いない。
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成績という意味では、安美錦の11勝4敗は立派だった。技能賞というのも納得できる。
僕の中のイメージで言えば、安美錦は『浮世雲(はぐれぐも)』の主人公・雲だ。いつもは飄々とした色男。ところが、一たび太刀を抜けば名人の腕前。安美錦の相撲と瓜二つではないか。
来場所は、また三役に復帰するだろう。そこでまた「欲のない強さ」を見せてもらいたい。
そういえば、先に触れた高見盛もこの安美錦も青森出身だ。青森という土地は、大相撲という見世物にとってある意味大事な個性という「花」の名産地である。
上記二人の関取に加え、演劇評論家で早稲田大学客員教授の宮沢章夫氏が提唱する演劇的な「くたびれた肉体」を最も体現する武州山も青森出身だ。
さらに、その他でも、顔面絶壁男・岩木山、反骨の塩撒き王・将司、眉毛横綱・海鵬等、個性的な面構えが並ぶ青森県出身力士。
全体的に高齢なのが気になるが、これからも土俵に「花」を添え続けてくれるだろう。
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そして最後に、やはり触れなくてはならないのが白鵬だろう。なんだかんだと言いながら、優勝をさらった。安定性という意味で言うなら、おそらく大鵬、千代の富士、貴乃花のそれぞれ全盛時にもひけを取らない。
特に十四日目の日馬富士戦では、日馬富士の最高の立会いを受け止め、すぐに両差し。相手を後ろ向きにさせ、電光石火のごとく送り出した相撲は、まさに横綱相撲と呼ぶにふさわしい内容であった。
魁皇と千代大海の土俵際人生、琴欧洲と稀勢の里の明日への希望、朝青龍と日馬富士の捲土重来...
9月には、また、楽しみ満載の秋場所が待っている。
まさむね
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