「天皇論」における小林よしのりのぎりぎりの判断
小林よしのりの「天皇論」は力作である。
これまで発表した「差別論」「戦争論」「台湾論」「沖縄論」等の作品も様々なタブーに挑戦してきた。
その都度、敵を作るが、それを厭わない。
常に、読者に正対し、正論を唱え続けてきた。
特に、戦後民主主義、マスコミ、左翼/右翼の欺瞞を暴き続けてきたその姿勢は尊敬に値する。
そして、ここに来ての満を持した形での「天皇論」の発表なのである。
小林氏が長い間、天皇について書きたいが書けない状態にあったということは漏れ聞こえてきたところではあるが、その長年の蓄積を一気に吐き出した感のある勢いのあるこの作品。
まさにには敬服せざるを得ない。
小林氏は天皇についてこう語る。
日本の「国体」は、天皇と公民で成り立っている!
天皇は公的統合の理念上の体現者であり、民を「大御宝」として大事にする。
民は私的支配を受けない存在として、天皇の「大御心」を戴く。
この民の信頼と尊敬によって、天皇の権威は支えられている。
その権威によって、日本は安定した社会を築くことが出来るのである!
おそらく、皇室というものは日本人の発明の中で最高の傑作であり、オリジナリティであり、叡智の結晶である。
しかし、その皇室が今、危機にある。
それは、今後、女性天皇、そして、女系天皇認めるかどうかといういわゆる皇室典範改正問題である。
僕は、小林氏が、この「天皇論」で、この問題をどう取り扱うかという点が最も気になりながら読み進んでいった。小林氏は明らかに、この点をを避けているようにも思えた。
しかし、全体で379ページある本書がもう終わろうという374ページ目でついにこの点に触れている。
そこでは、「わしはこの『天皇論』で、「皇室典範の改正問題」をあえて論じなかった。」と告白している。確かに、この問題こそ、現代の日本人がつきつけられた歴史上最大の課題であるからだ。
そして、「政府は「皇室典範改正」の準備を急ぐべきである。」「皇室のご意志を最大限尊重すべきではないか?」と続ける。
結局、小林氏は、この問題の判断を天皇に委ねているのだ。
ここまで、「天皇が憲法改正反対を明言なさったらわしは逆賊になる」「わしは天皇の御言葉に反しても、日本の伝統を強制する悪役に徹していこうと思っている。」等、天皇個人の判断よりも皇室、そしてその伝統に価値を置く発言を繰り返していたのが、揺らぐ瞬間だ。小林氏の苦悩と判断を感じ取らざるを得ない一コマである。
勿論、それをここで責める気はしない。これはあまりにも難しい問題だからだ。
おそらく、この判断を天皇に委ねる姿勢は、現時点で出来る最大限の「ぎりぎりの判断」なのだと思う。
そして、こう続ける。
たとえ将来、女系天皇が誕生するようなことになっても、わしは失望しない。
益々国民が天皇に注目し、敬愛を深め、かえって伝統が強化されることだってあるかもしれない。
そうなるように皇室の意義を子孫に我々が伝えてゆかねばならない。
元々、天照大神は女性神である。
ならば日本の天皇は女系だったと考えることも出来る!
★
僕が小林氏の上記の結論を(勝手に)さらに進めよう。
古代より、皇室は、いつの世にか、男系が危機に陥ることも想定して、その時の対応のヒントとして、天照大神という女性を天皇の祖先神にしておいたのかもしれない。
また、現代ほど、外国人に対する受け入れを迫られている時代はない。
そんな時代を想定して、海の神、山の神のとの血の交わりを神話として残しているのかもしれない。
だとするならば、そこにこそ、「天皇という叡智」の奥深さがあるのではないだろうか。
まさむね
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