インサイトという名の「凡庸」、それでもいいかと思える僕
広告業界に、"インサイト"という言葉がある。
「ターゲットインサイト'09-'10」(宣伝会議)によると、こう定義されている。
インサイトとは、生活者の行動の背後にある顕在化していないニーズや課題、またはそれに対する理解や洞察を用いたターゲットへのアプローチ手法をさす。
具体的に言えば、こういうことだ。
例えば、「Seventeen」(集英社)の越崎編集長は、中高生へのマーケッティング・アプローチをするならば、彼女たちの好みや特徴、行動を背景まで把握することが大事だという。
たとえば、デコが流行っているからといって、指定の商品にデコレーションを施して応募するキャンペーンを実施しても反応は芳しくない。"デコ"る心理には、お気に入りのものにさらに愛着を持ちたい、あるいは100円ショップなどで買ったものに自分で付加価値を加えて「賢い私」を演出したい、という気持ちがあるからだ。彼女たちの関心を引くには、この心理を把握して行動の動線を整理する必要がある。
ビジネスにおいてツボを押さえるということは、まことに難しい。
ユーザーのニーズを少しでも間違えると、よかれと思ってやったことが、魚が居ないところに釣り糸をたらすどころか、魚が居るにも関わらずそこに石を投げ込んで、魚を逃がすようなことになりかねないからだ。
それにしても、僕にとって、インサイトというのは魅力的に思える。
それは、一見、取りたてて何も無いような平凡な生活世界の奥に、深い物語、例えば、ある時は悪魔の邪悪を、そしてある時には天使の微笑を読み込もうとするプロレス者(=フカヨミスト)の感性と通底しているからかもしれない。
おそらく、僕が家紋という文化にこだわるのも、現代において既に消えかけている過去からのメッセージに耳を傾け、多くの日本人が忘れてしまったシンボルに目を凝らすことによって、そこに隠された物語を読み解きたいという潜在的願望から来ているのだろう。
ところで、先に引用した「ターゲットインサイト'09-'10」(宣伝会議)の「世代別インサイトを読み取る」という記事には、世代別のインサイトがチャート式に書かれていた。
それによると、60歳代の男性を読み解く鍵は「ひとり消費」、50歳代はモノが大好きで理念よりも機能に関心が高いとある。
また、30歳代は「ついていない世代」=運命論や占いに関心が高くスピリチュアルブームの担い手、20歳代は、小型志向で自分流コーディネートが好きとのこと。
そして、僕がギリギリ所属する40歳代は、「世界認識にリアリティを欠き、現実を物語の一部のようにとらえる」とある。
ようするに、インサイトに魅力を感じてしまった僕は、まさしくインサイトの対象として正しいサンプルだったのである。
かつて蓮實重彦が「凡庸」と言って警告した不自由さに僕も囚われていたということだ。
ただ、当時(80年代)と違うのは、僕は「凡庸でもいいじゃないか」と言えるようになったことである。
まさむね
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