西野カナの「もっと・・・」で気になった「君」と「あなた」
西野カナの「もっと・・・」の着うたDL数が好調のようだ。
先日、ヒルクライムの「春夏秋冬」が合計170万DLという話を聞いたばかりだが、この「もっと・・・」もその数に迫るかもしれない。
RIA(日本レコード協会)の着うたフルのDL数の推移によると以下のような動きをしているのだ。
一度、下がったかと思ったら、再度、上がるというのは、ロングヒットの兆しがあるということではないだろうか。期待して推移を見守りたい。
10.13~10.20 1位
10.21~10.27 3位
10.28~11.03 1位
11.04~11.10 4位
さて、この歌をなにげなく聴いていて、一つ思ったことがある。その歌詞がかなり積極的なのだ。
今すぐ会いたいもっと声が聞きたい
こんなにも君だけ想っているのに
不安で仕方ない何度も聞きたい
ねぇ本当に好きなの?
状況から察するに、オトコの方は今ひとつ、消極的なようだ。一方、オンナの方はかなり焦っている感じすらする。いわゆる肉食的なのである。先にあげたヒルクライムの「春夏秋冬」が、オトコからオンナへ「末長く、無難な愛」を求める歌詞なのとは対照的だ。これも現代のご時世を表す一つの現象なのだろうか。
ところで、僕はこの西野カナの「もっと・・・」を聞いて、また別の事を考えた。彼女は相手の男性を「君」と表現しているのだ。そういえば、歌謡曲(J-POP)において、いつから、相手の男性を「あなた」ではなく、「君」と呼ぶようになったのであろうか。そんな疑問がわいたのである。
そこで以下、ここ20年間の女性シンガーのヒット曲を50曲選んで相手をどう呼んでいるのかを調べてみた。(僕も相当にヒマだな)勿論、選曲は僕の主観が多分に入っているが、大体、その時代のヒット曲と呼ばれていた曲は網羅していると思う。
「あっあの曲が入っていない」などと思われる方は、どうぞ、ご自分でお調べください。
No | CD発売日 | 曲名 | アーティスト名 | 自分 | 相手 |
---|---|---|---|---|---|
1 | 1989.04.21 | diamond | プリプリ | --- | --- |
2 | 1990.06.27 | 会いたい | 沢田知可子 | 私 | あなた |
3 | 1991.05.21 | あなたに会えてよかった | 小泉今日子 | 私 | あなた |
4 | 1991.11.07 | PIECE OF MY WISH | 今井美樹 | --- | あなた |
5 | 1992.09.19 | 決戦は金曜日 | ドリカム | 私 | あなた |
6 | 1992.09.23 | DA・KA・RA | 大黒摩季 | --- | あなた |
7 | 1993.05.19 | 揺れる想い | ZARD | --- | 君、あなた |
8 | 1993.12.01 | ロマンスの神様 | 広瀬香美 | 私 | あなた |
9 | 1994.02.09 | ただ泣きたくなるの | 中山美穂 | 私 | あなた |
10 | 1994.07.21 | 恋しさとせつなさと心強さと | 篠原涼子 | --- | あなた |
10 | 1994.10.24 | 春よ、来い | 松任谷由美 | 私 | 君 |
11 | 1995.02.01 | masquerade | trf | 私 | あなた |
12 | 1995.02.20 | ら・ら・ら | 大黒摩季 | 私 | あなた |
13 | 1995.02.22 | サンキュ | ドリカム | --- | あなた |
14 | 1995.05.10 | TOMORROW | 岡本真夜 | --- | 君 |
15 | 1996.03.06 | I'm proud | 華原朋美 | 私 | あなた |
16 | 1996.10.07 | これが私の生きる道 | Puffy | 私 | あなた |
17 | 1996.11.04 | PRIDE | 今井美樹 | 私 | あなた |
18 | 1996.11.27 | a walk in the park | 安室奈美恵 | 私 | あなた |
19 | 1997.01.15 | FACE | globe | --- | あなた |
20 | 1997.02.19 | CAN YOU CELEBRATE? | 安室奈美恵 | --- | --- |
21 | 1997.04.23 | Hate tell a lie | 華原朋美 | 私 | あなた |
22 | 1997.05.16 | ひだまりの詩 | ル・クプル | 私 | あなた |
23 | 1997.10.15 | WHITE LOVE | SPEED | 私 | あなた |
24 | 1998.01.21 | 長い間 | kiroro | 私 | 君、あなた |
25 | 1998.07.17 | 花火 | aiko | あたし | あなた |
26 | 1998.08.05 | Trust | 浜崎あゆみ | 私 | あなた |
27 | 1998.10.28 | ALL MY TRUE LOVE | SPEED | 私 | あなた |
28 | 1998.12.09 | Automatic | 宇多田ヒカル | --- | 君 |
29 | 1999.01.20 | ここでキスして。 | 椎名林檎 | あたし | あなた |
30 | 1999.03.10 | 長いため息のように | ブリグリ | 私 | あなた |
31 | 1999.07.14 | Boys & Girls | 浜崎あゆみ | 僕 | 君 |
32 | 1999.09.09 | LOVEマシーン | モーニング娘。 | あたし | あんた |
33 | 1999.12.08 | Love,Day After Tomorrow | 倉木麻衣 | --- | 君 |
34 | 2000.10.25 | Everything | MISIA | 私 | あなた |
35 | 2000.12.13 | M | 浜崎あゆみ | --- | --- |
36 | 2003.12.17 | Jupiter | 平原綾香 | 私 | あなた |
37 | 2003.12.17 | さくらんぼ | 大塚愛 | あたし | あなた |
38 | 2004.02.11 | ハナミズキ | 一青窈 | 僕 | 君 |
39 | 2005.08.31 | GLAMOROUS SKY | 中島美嘉 | 僕 | 君 |
40 | 2006.06.28 | A Perfect Sky | BONNIEPINK | --- | 君、あなた |
41 | 2006.09.27 | 三日月 | 絢香 | --- | 君、あなた |
42 | 2007.02.28 | Flavor Of Life | 宇多田ヒカル | 私 | 君 |
43 | 2007.03.07 | CHE.R.RY | YUI | --- | 君 |
44 | 2007.09.12 | 愛のうた | 倖田來未 | 私 | 君 |
45 | 2008.01.23 | そばにいるね | 青山テルマ | 私 | あなた |
46 | 2008.04.16 | かえりたくなったよ | いきものがかり | 僕 | 君 |
47 | 2008.06.11 | Moon Crying | 倖田來未 | --- | 君 |
48 | 2009.04.29 | 明日がくるなら | JUJU | --- | 君 |
49 | 2009.05.13 | Love forever | 加藤ミリヤ | 私 | 君 |
50 | 2009.10.21 | もっと・・・ | 西野カナ | 私 | 君 |
こう見ると、どうやら、1990年代の終わりから、「君」が増えてきているような気がする。(また、この頃から、女性が男性の立場で歌う「僕」系の歌も増えてきたように思う。)
実は、僕は以前からJ-POPにおける1998年問題というのに注目しているが、この年は、いわゆる小室哲也の歌が下火になり、自分で自分の歌を歌うような女性シンガーが大量に登場してきた年なのである。
例えば、宇多田ヒカル、浜崎あゆみ、aiko、MISIA、kiroro、椎名林檎、それに毛色は違うが、モーニング娘。もこの年にメジャーデビューしているのだ。
また、この年と前後して、1997年にCocco、1999年に倉木麻衣、矢井田瞳、2000年に鬼束ちひろなどもデビューしている。
そして、これらの新人の中では、宇多田ヒカル、倉木麻衣、浜崎あゆみといったその後、大ブレイクする面々が「君」系のシンガーとして、おそらく、昨今の「君」ブームを定着させたのではないかというのが僕の推理である。
そして、彼女達の歌詞のメインテーマは相手の男性(「あなた」)への愛ではなく、「自分」そのものであることが多い。そして、男性を斜め下から見上げる「あなた」目線ではなく、「君」と呼ぶこと(=水平目線)が、現代という時代の雰囲気にあっているのかもしれない。
あるいは、リアリティのある恋というよりも、恋する自分に恋するといった自己イメージに対する欲求の強さの反映として、男性との距離感をかもし出す抽象的な「君」が頻繁に使われだしてきているのかもしれない。
ただ、本当のところは、まだ、よくわからない。
まさむね
« ただのノスタルジー本ではない福田和也の「日本の近代」 | トップページ | 最近の若い人は年に2本しか観なくても映画好きという »
「J-POP」カテゴリの記事
- Piecesの真意(ラルク論)(2000.10.31)
- オタクとエイベックスと携帯と。(2000.11.01)
- 「ゆず」について(2000.11.02)
- ここにいるよ 待ちに待った下流ソング登場(2008.03.02)
- 「二人」aiko、その視線のリアリティ(2008.03.15)
この記事へのコメントは終了しました。
« ただのノスタルジー本ではない福田和也の「日本の近代」 | トップページ | 最近の若い人は年に2本しか観なくても映画好きという »
コメント