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2009年12月 7日 (月)

「ここはウソで固めた世界でありんす」とは僕らの台詞だ

世界に対する違和感、それは現代人に特有の感覚なのだろうか。

それは、本当の自分はどこか別の場所に居るべきであり、今、ここに存在するのはウソの自分だという感覚である。

今から40年以上前にジョン・レノンは「Nowhere Man」という曲でこのように歌った。

まさにそんな現代人の心の叫びがここにある。



He's a real nowhere man

Sitting in his nowhere land

Making all his nowhere plans for nobody


彼はどこにも居場所の無い男

どこでもないような場所に座り

誰のためでもない夢を描いている




しかし、僕らは孤独と闘いながら、このウソの世界で生きていくしかない。残酷だが、それが豊かさを手にした現代人の宿命なのだろうか。



TBSの日曜劇場「JIN-仁」を見ながらそんなことを考えた。吉原の花魁・野風(中谷美紀)が仁(大沢たかお)に向って言う。「ここ(吉原)はウソで固めた世界でありんす」と。

しかし、彼女はその吉原という籠の中でしか生きていけない哀しい鳥なのだ。そして、彼女の言葉を受けた仁も思う。「自分にとってもこの世界は本当に自分がいるべき世界ではない。自分はここでは根源的によそ者なのだ」と。



このドラマの高視聴率が続いている。コンスタントに20%を叩き出している。このドラマの何かが現代日本人の心の琴線に触れているのだ。

それはおそらく、現代人が根源的に持っている世界に対する違和感が、野風や仁の持つ世界に対する浮いた感じと共通しているからではないかと思う。

別な言葉で言い換えるならば、それは、自分の意思とは無関係に「希望の無い世界に放り出されてしまった」現代の若者の不条理な痛みと通底しているのではないだろうか。どうして僕らはこんな時代に生きなければならないのかという痛みと...



そして、「JIN-仁」は近年めずらしくも、登場人物達が悩み続けるドラマである。

主人公の仁は既に第九話なのに、最初の悩みが解決していない。何をしてもその悩みから逃れることが出来ないのだ。

「自分がこの世界で何が出来るのだろうか。しかし、自分が何かすることによって、歴史が変わってしまうのではないか。いや、そうだとしても自分はこの世界で医者として一生懸命生きるしかないのだろうか。」

彼は、延々とそういった形而上学的な悩みを抱き続けるのである。

そして、野風も、咲(綾瀬はるか)も、恭太郎(小出恵介)も登場人物は誰一人、心に暗点を抱えながら生きているのだ。全員が切ない片想いをしているのだ。

唯一、青春の悩みを吹っ切った坂本龍馬(内野聖陽)は、しかし、来るべき悲劇に気づかない。彼だけが世界と一体化しているようにも見えるがその哀しい運命が僕らの心を切なくする。



こんな重い話が高視聴率を取る時代とは一体、何なのだろうか。裏番組の「坂の上の雲」は日本が最も輝いていた時代のオマージュだ。日本人本来の希望と勇気をもたらそうとするドラマである。全ての問題が、積極的な行動によって解決していける(と思える)ような明るい世界の話だ。

しかし、一方で「JIN-仁」は、人は天命に従って生きるしか道は有り得ない、しかし、一生懸命に生きたとしても、残念ながら、根源的な悩みは、自分を解放してくれないというメッセージを僕らに伝えるのだ。



幕末という僕らにとってはフィクションでしかありえない世界が舞台だからこそ、「ウソで固めた」現代の比喩になりえた「JIN-仁」。時代劇ゆえに、ギリギリ僕らは目をそむけずに見ることが出来るのだとしたら、現代の病=世界との違和感は目も当てられない程ひどいことになっているのかもしれない。



まさむね



2009.12.01 大学の学長達には是非見て欲しかった今週の「JIN-仁」

2009.10.27 「リアル・クローズ」と「JIN-仁」が今クールの僕のはまドラ♪♪だ

2009.10.18 「JIN-仁」における坂本龍馬の目の輝きは必見である

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