「篤姫」から「龍馬伝」に繋がる家紋ミスを深読みする
先週の日曜日に見逃してしまったため、今日の昼の再放送で「龍馬伝」を見た。
今回は神戸の海軍操練所閉鎖に伴い、行き場を失った龍馬に、勝海舟が西郷吉之助を紹介し、龍馬が西郷に会いに行くという場面であった。
時期は禁門の変の後、西暦で言えば1864年頃の話である。
ここで僕は驚いた。西郷が「抱き菊の葉に十六葉八重菊」いわゆる「南洲菊(なんしゅうぎく)」の紋付を着ているのだ。
確かこの紋所は、明治天皇が自作し、直々に西郷に下賜したもののはずである。そして西郷はそれを恐れ多いとして、南洲本人以外の使用を禁止したといういわくつきの家紋である。(左絵は青山霊園にある西郷家奥津城に彫られた南洲菊)
それなのに、何故、明治維新以前のこの時期に彼がすでにこの紋付を着ているのであろうか。
これは明らかに歴史考証が間違っているのではないだろうか。おそらく、この時期であれば、西郷は菊池氏の流れを汲む鷹の羽系の紋所、あるいは、葉菊系の紋所をつけていたと思われる。
ちなみに、西郷が葉菊系を付けていたかもしれないということの根拠は、多磨霊園にある西郷の弟の従道の墓所にある三つ寄せ菊の葉(右絵)からである。
僕は「龍馬伝」に関してはその画面の美しさ、背景のオブジェやセリフのリアリティに感心しながらずっと見ていた。
例えば、土佐は南国だ。だから例えば、弥太郎の家の庭には亜熱帯系の植物が生えている。僕はそれをこのドラマ特有のリアリティとして楽しんでいたのである。
しかし、これでは台無しだ。僕が家紋に少し興味を持っているからこそこのミスがわかったのだ。もしかしたら、例えば、土佐弁の専門家、植物学の専門家から見たら、「龍馬伝」はかなり怪しいドラマなのかもしれないという疑惑すら出てきてしまった。
しかし、実は一昨年の「篤姫」でも、2008年10月5日のエントリー、『「篤姫」の家紋に物申す』でも書いたが、全く同様のミスがあった。
NHKは何故、こうも同じミスを繰り返すのであろうか。西郷という英雄と明治天皇との親密な関係を隠蔽しようとしているのであろうか。そう疑われもしかたのない連続ミスである。
そういえば、以前、『「龍馬伝」でどのように尊王を描くのかが楽しみだ』というエントリーでも書いたが、僕が「龍馬伝」で唯一、気になっているのが、龍馬の心の中の天皇という存在の薄さである。
「龍馬伝」における龍馬は確かに、攘夷派だ。しかも、海軍を作って外国が日本に攻めてこないようにしようとするという、現在の自衛隊論にも通じる先進的な考え方を持っている。その点、武市的な直情的な攘夷派とは一線を画している。それはそれでいい。しかし、龍馬の言動からスッポリと「尊王」という観念が抜け落ちているのが気になるのだ。
海軍操練所に多額の出資をした松平春嶽が、龍馬にたいして「勤王家」として評価していたという歴史的事実がある(これはドラマの後の歴史コーナーでも紹介されていた)にもかかわらず、ドラマの中の龍馬は天皇に対して全く想い入れが無いのである。
西郷の家紋にまつわる彼と明治天皇との信頼の物語を隠蔽しつづけるNHKの姿勢は、この「龍馬伝」における龍馬の天皇に対する想い入れの無さ、さらにいえば、NHKスペシャル「ジャパン デビュー」の反天皇の姿勢と通底していると見えてしまうのは僕のたんなる下衆の勘繰りなのであろうか。
まさむね
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