「葬られた王朝」に見られる梅原猛の邪推は僕の好み
梅原猛の「葬られた王朝」をようやく読み終えた。
「隠された十字架」「水底の歌」など、梅原先生が今までに著した本は、権威ある教授というよりも、好奇心あふれる子供のような視線で、僕らを決して退屈させない。すばらしい着想、そして勇気だ。
それが何故、勇気かといえば、この本はなんと四十年前に書かれた「神々の流竄」という本の中で提唱した「出雲神話はヤマトで起こった物語を出雲に仮託したものであるという説」の誤りを認めるために書かれたという一つの主旨があるからだ。
これは老大家の姿勢としては誠に誠実で、しかもカッコいい。
本書のあとがきを梅原先生はこう締めくくる。
これ(出雲神話はヤマトで起こった物語を出雲に仮託したものであるという説)はまったく誤った説であり、このよな誤った説の書かれた書物を書いたことを大変恥ずかしく思うとともに、オオクニヌシノミコトにまったく申し訳ないことをしたと思っている。今回改めて出雲大社に参拝し、神前で拝礼してオオクニヌシノミコトに心からお詫びした。そして、「私は間違っていました。改めてミコトの人生を正しく顕彰する書物を書きます」と固く誓って、出雲を後にしたのである。
自分も「家紋主義宣言」の中でもいくつかの推論を述べさせていただいた。その多くが自分の勘に基づくものだが、もしもそれらが明らかに誤っていたり、誰かに失礼あたっていたということが明白になれば、この梅原先生のような真摯な態度でいたいと、今は思っている。
さて、この「葬られた王朝」の内容の話に移りたいと思う。僕がこの本の中で一番興味深いと感じたのは、「古事記」を口伝した稗田阿礼が藤原不比等ではないかという説、そして不比等が「古事記」に対し、藤原氏が末永く朝廷で実権を握ることを正当化するための「しかけ」をしたという説だ。
例えば、アメノコヤネノミコト、ヤゴコロオモイカネ、タカミムスビ、タケミカヅチといったアマテラスやニニギといった天孫族を影に日向に支え続けた脇キャラを、藤原氏を思い起こさせるようなキャラに仕立てたというのである。
簡単に言えば、アメノコヤネノミコトは、アマテラスが天岩戸にお隠れになった時の現場の仕切りをした神、そのアイディアをだしたのが、ヤゴコロオモイカネ。
また、タカミムスビはアマテラスの子(実際にはスサノウの子)のアメノオシホミミの義父、それは聖武天皇の義父である自身を仮託したといえなくもない。
さらにいえば、中臣氏(藤原氏の先祖)のもともとの氏神であるタケミカヅチを、日本第一の「武」の神に押し上げ、オオクニヌシの国譲りの武力的功労者にしたところに、不比等は、藤原氏の隠された刀を覗かせているという見方をしているのだ。
年老いてもなお、正論に対して、邪推をしかけるという梅原先生の視線は僕の好みだ。
今後、更なるご活躍を期待したい。
まさむね
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