鵜呑みにすると逆に恥をかきそうな「知らなきゃ恥ずかしい日本文化」
会社の近くにある恵比寿の「有鱗堂」で思わず「知らなきゃ恥ずかしい日本文化」(白幡洋三郎著)という新書を手にしてしまった。
僕はどうしても平積みの新書に弱い。
ハードカバーの本は通勤電車の中では読みにくいが新書ならば、ズホンの後ろポケットに入るし、いざとなれば片手でも読める。いつもなにげなく買ってしまうのだ。
しかも、この本の表紙裏にはこう書かれてあるではないか。
日本文化の良さを知らないのは、日本人だけかもしれない...「歌舞伎」「すし」「武士道」あなたはこれらの起源や歴史を外国人に説明できますか?
そういった日本系の雑学に興味はあるが、説明しろと言われると自信が無い僕は、この本をレジに運んでしまった。
レジでカヴァーをつけてもらい、歩きながらパラパラとめくってみる。こういう、短い章がたくさん集まっている本は、まずは自分の興味のあるところから、ランダムに読めるからいい。
家紋に興味がある僕はその項目を探すがみつからない。
「歌舞伎」「盆栽」「天皇」「インスタントラーメン」「くじら」...面白そうな項目が並んでいる。そして、みつけたのが「苗字」だ。
しかし、この項目を読んでみて僕は思わず眉をひそめた。
小見出しには、"「苗字」の種類は14万~15万もあって世界トップクラス"とあるのに、中身を読むと、"日本にはニ九一、一ニ九の苗字があるとしている"と「日本苗字大辞典」を引用している。どっちが正しいのか...いきなり、いい加減なのだ。(ちなみに、僕は他人に聞かれると一応、約30万と言うことにしている)
しかも目を疑ったのは、それに続く文章だ。致命的に間違っているではないか。
...天皇家から分家して一家をなすとき新しい苗字を授かった。源氏と平家で知られる「源」「平」などがそれである。
ちょっと待ってほしい。ここでは詳しくは触れないが、「源」「平」は苗字ではない。"氏"である。たしかに、古代の氏、姓、そして名字、苗字の関係はややっこしい。しかし、そのややっこしいところを上手に解説してこそ、「知らなきゃ恥ずかしい日本文化」ではないのか。
そして、この項の最後にほんの少し、家紋について触れてあった。
苗字と同じく一族を象徴する印である家紋の起源には諸説あるが、江戸時代には庶民にも広まった。
これだけである。完全に間違いとは思われないが、寂しすぎる一行である。しかも、僕は様々な家紋の本を手にしたが、基本的に家紋の起源としては平安時代の公家が牛車の印に使用したというのが定説だと思っている。
手元にある「家紋事典」「家紋散策」「家紋の事典」などみなそのように記されている。ちなみに拙著「家紋主義宣言」もそうした先達の本を元にそのように書かせていただいた。
諸説があるのであれば、白幡先生には、その諸説とやらを是非おうかがいしてみたいところである。
さて、このように、自分の最も興味のある項目でこのような書き方をされたのでは、他の項目もさぞいい加減に違いないという嫌な視線でこの本を読んでしまった僕。
我ながら心が狭いが、その中でいくつかの問題点が見つかったのでここに指摘させていただく。
慶応義塾は一八九〇年大学部を設けるなど私立大学の草分けとして成長し、後には幼稚舎を併設し、幼児教育から大学教育まで一貫した学校をつくりあげ...(51塾)
自分も慶応で学んでいたので何度か、幼稚舎=幼稚園という勘違いをされる人に会ったことがある。しかし、今更言うまでもなく幼稚舎は小学校である。したがって、慶応は幼児教育はしていない。
ヨーロッパや中近東でも空手は人気が出た。その際の売り物はやはり何といっても、柔よく剛を制す、小が大を投げ飛ばす、神秘的な技とさらに神秘的な儀礼や作法...(69空手)
確かに一部、空手の流派に投げ技が無いわけではないが、基本的に空手というのは打撃系の格闘技ではないのか。おそらく、柔術と混同されているように思われる。
大黒天、毘沙門天、弁財天、恵比寿などインド系の神は商業や海運の神で...(95七福神)
僕の理解だと、~天とつく神様がインド系ではなかったか。恵比寿様は「古事記」にも登場するれっきとしたイザナギとイザナミの息子、つまり日本の神様である。
まぁ、どんな本にも間違いはある。だから、この本だけをどうのこうの言うのも大人気ないのだが、「知らなきゃ恥ずかしい日本文化」と銘打っているのだから、このようにツッ込まれても受けても仕方ないのではないだろうか。
まさむね
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