壱岐が生んだ「電力の鬼」松永安左エ門の謎
先日、仕事で長崎県の壱岐島へ行ってきた。
この島は、古来、朝鮮半島と九州との交通の中継地として発展。「魏志倭人伝」にも一大國(一支国)として記述がある。
また、平安時代の刀伊の入寇や、鎌倉時代の元寇などの大陸からの侵略ではたびたび大きな被害があったと伝えられているが、現在は壱岐食用牛、海産物、麦焼酎などの第一次産業によって栄える平和な島である。島の方によれば、「ここは自給自足できる島」だそうだ。
そんな壱岐島に生まれ、戦前・戦後を通して財界人として存在感を示した男がいた。
「電力の鬼」「電力王」とも称された松永安左エ門である。
僕は、飛行機出発の前の少しの時間を利用して、空港の近くにある松永安左エ門記念館に行ってきた。
ここは安左エ門の生家跡に建てられたもので、中に入ると勲章、書、羽織、写真などを見ることが出来る。写真には、安左エ門翁の激しくも真っ直ぐな性格が映し出されていた。凄い迫力のある人物だったんだろうな。
彼は生前、将来の日本の産業発展を見据えて、数多の反対を押し切り、電力事業の再編、値上げを強引に行った。
そのために「電力の鬼」といわれたのである。ちなみに、確か、福田和也の「人間の器量」にも安左エ門について傑物として紹介されていたように記憶している。
しかし、そんな写真の中で僕が注目したのは、安左エ門の御尊母の写真だった。御尊母の羽織には、下がり藤に扇紋がついていたのだ。
実は、以前、新座の平林寺で松永安左エ門の墓に参ったときに、同じ墓域に扇家という家の墓があり、その家紋が下がり藤に扇だったのが僕はどうしても気になっていたのだ。
扇家と安左エ門とはどういう関係にあるのかと...
しかしその時は、もしかしら、稀代の艶福家といわれた安左エ門のこと、身寄りのない愛人を同じ墓に置いてやった、くらいに考えていたのだ。
僕は、そのことを記念館の管理人さんに確認しようと、話しかけてみた。
管理人さんによると壱岐では、嫁入りの際に、実家の羽織を道具として持参する、そして女性はいわゆる女紋を継承する地域だという。
ということは、おそらく、扇家とは、安左エ門の母の実家であり、下がり藤に扇紋は、その女紋だった可能性がある。
しかし、現在は安左エ門の母方の家=赤井家は既に絶えているとのこと。
ということは扇家に関しては、さらに情報がないそうである。少し残念だが仕方がない。
★
僕は東京に戻ってきた後、松永安左エ門の家紋が、輪鼓紋だったこと、そして松永家が元々肥後細川家家臣内藤家の流れを汲んでいると考えられていることなどを、思わす「家紋の事典」の著者・高澤等先生にメールをした。
僕は謎が多く、面白い情報は人に伝えて真実を探りたくなる性格なのである。
すると高澤先生から興味深く、示唆に富んだ返信があった。
僕はいつも高澤先生の推理には感心させられる。歴史を考えるというのはこういうことかといつも思わされるのだ。
今回もそうだった。
ただ、その内容はあまりにも面白すぎるため、ここに全容をご紹介するのは控えたいと思う...が、それはあんまりなので、せめて、そのヒントとなる事実を10個、箇条書きにしてみた。
1)戦国時代の梟雄・松永久秀は下克上を体現、反逆的な一生を送った
2)内藤家にとって、「松永」という名字は、残したくもあり、隠したくもある名前である
3)久秀の弟の長頼は細川家臣の内藤家の家督を継いでいる
4)『見聞諸家紋』によるとその内藤家では「輪鼓に手鞠紋」を使っていた
5)松永安左エ門の家紋は丸に中陰輪鼓紋である
6)内藤姓では藤紋の中に「内の字」「木瓜」「花菱」などを入れることが多い
7)安左エ門は耳庵と称し、茶人としても一流であった
8)久秀はその死に際して、平蜘蛛といわれた茶器を砕いた
9)安左エ門は、戦前に軍部や官僚に逆らうなど、反骨的な人生を送った
10)安左エ門の顔はどこか、久秀を彷彿させるような風貌である
ご興味のある方は、上記からストーリーを組み立ててみてください。
まさむね
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