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2011年7月20日 (水)

「新・信長公記」を読んで。歴史上の人物を考えるというのはなんと楽しいことか

高澤等先生の「新・信長公記」をようやく読了した。

時間がかかってしまったのは、他でもない。僕が信長に関して、ほとんど具体的な予備知識がなかったからだ。

勿論、僕の頭の中には通り一遍の信長像は頭に入っていたのだが、それがいかに、「常識(=偏見)」に満ちたものだったのかを、改めて本書は教えてくれた。その「常識」を一つ一つ壊していく作業に時間がかかってしまったのである。



例えば、いわゆる乾坤一擲の大勝負と言われている桶狭間の合戦。

実は、信長はその情報戦を含めてかなり、周到な作戦を立てているのである。

つまり、少数精鋭を引き連れての突然の出陣こそ、敵に集兵を悟られないために、しかも、密度の高い攻撃力をピンポイントで活用するための合理的な判断だったという言うわけである。

また、武田の騎馬隊を撃破した長篠の合戦においては、その決戦日までに味方の武器・弾薬をじっくりと準備するだけではなく、敵方の弾薬を消耗させ、経済的に追い詰めるなどの前哨戦を進めつつ、いわゆる武家の正統のプライドという武田軍の最大の利点を逆手に取り、敢えて決戦日の申し入れを行ない、相手が引くに引けない状況を作ってしまう信長一流の巧妙な誘導作戦があったのではないかという説を出されている。



つまり、本書を読むと、信長、いかに、今川義元、あるいは武田勝頼と戦ったのかという以上に、いかに相手を戦わざるをえない状況に陥れたのかという、いわゆる総合戦略に長けていたのかがわかるのである。それは、冷徹、残忍、短気といった「常識」的な信長像からは、決して導き出されない姿のように思えた。



さて、高澤先生は、「結び」において、このように述べている。

本書を書き終えて自分でも気がつかなかったが、私は信長のことをついに一度も天才と表現することがなかった。つまり信長の一生で繰り返された日常は、私のような凡人でも理解することが可能なものばかりであったということだろうと思う。・・・(中略)・・・つまり信長という人間はひらめき型の天才ではなく、理詰めに物事を考えてゆく秀才型の人間であったのである。おそらく信長を天才と表現する者は信長を真に理解するに至らぬ者が降参の意味で用いる言葉に違いない。




ただ、それでも僕は、信長を天才という言葉で語ってみたい誘惑に駆られてしまう。



勿論、個々の局面において、後世、彼の行動を微分していけば、それは合理的な行動の積み重ねなのだと思うし、その一つづつは本書でも十分に証明されている通りかと思われるが、あの混沌とした時代に、唯一、彼だけが天下統一ということを考えていたこと、つまり自分自身の戦いを私闘ではなく公闘とする哲学を持っていたということ、しかも、そのあまりにも大きな目的を信じ続けることが出来たということ、そして、そのために冷静なリアリストであったということ、さらに言えば、そうしたことを結果としてほぼ成し遂げる宿命を持っていたということ、つまり、哲学、情熱、実行力、そして運という4点を備えていたという意味で、僕は、ロマンチックな心情を込めて信長のことを天才と呼びたいのである。

そして、以上の4点を軸として、他の戦国武将達と比較した場合、おそらく信長だけは別次元の存在のように思えるのだ。



いずれにしても、歴史上の人物を、現代から振り返り、考えたり、想像したり、悪口を言ったりするというのはなんと楽しいことか。

僕にとって、そういうことをしている時間は至福の時と言ってもいいようにすら思う。



そして、本書はその楽しさを十分に味合わせてくれる内容を持っている。

僕がこの本を読むのに時間がかかってしまった理由に関してであるが、実は、冒頭の話は言い訳に過ぎない。



本当は、早く読み終わってしまう(=至福の時間が終わってしまう)のがあまりに残念だったからである。



まさむね

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