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カテゴリー「ビートルズ」の64件の記事

2012年7月17日 (火)

キースリチャーズは、下手であり続けても、それをコンプレックスとは思わない図太い感性において、メチャクチャカッコいいのだ。

ザ・ローリングストーンズが50周年を迎えたらしい。

先日、TBSの夕方のニュースで、独占インタビューを少し流していた。

僕は、基本的にはビートルズ派だったが、高校時代には、既にビートルズは解散していたので、リアルタイムミュージシャンとしてはストーンズ派でもあった。



「メインストリートのならず者」「山羊の頭のスープ」「イッツオンリーロックンロール」「ブラック・アンド・ブルー」「サムガールズ」といったアルバムが毎年のように発売されていた。

70年代の話である。

ただ、正直、僕の肌感覚で言えば、その頃は、ストーンズよりも、レッドツェッペリンやクィーン、ELP、ディープパーブル、ロッドスチュアート、ウィングスなんかの方が人気があったような気がする。ストーンズというのは、音楽的というよりも、どちらかといえば、スキャンダラスなイメージの方が先行していたからだ。当たり前の話ではあるが「ブラウンシュガー」とか「シスターモーフィン」っていうようなドラッグソングは、日本の中産階級の中高生が聴いてわかるような世界じゃないよね。

それでも、僕は、ストーンズの悪魔的な魅力に取り付かれていて、あのベロマークのついたTシャツが欲しくて、下北沢とか原宿とか歩き回ったという思い出がある。でも、結局見つからなかった。今から思えば、まったく、ショボい話である。



そのローリングストーンズが、いまや、50周年を迎えるという。しかも、最近、ストーンズバーというアルコール飲料も発売されていて、「Rocks Off」がテレビから流れたりすると隔世の感がするのは僕だけではないかもしれない。



じゃあ、ストーンスの魅力って何だ?かつて、ユリイカの「ローリングストーンズ特集」があったとき、坂本龍一先生は、「あの、ドッ下手の下手さがいい。」というようなことを言っていた。また、つい先日、ラジオで萩原健太さんも、こんなことを口にしていた。

「普通、50年もギター弾いていたら上手くなっちゃいますよ。でもキースっていまだに下手。絶対に、上手くならないような努力をしていに違いないww。彼はロックというものを表現するために真面目にそこに向っているんですよ。」

面白い見方、さすが萩原健太さんだ。



確かにそうである。キースは、下手であり続けても、それをコンプレックスとは思わない図太い感性において、メチャクチャカッコいいのだ。

おそらく、多くの人が彼の真似をしようとして、あの微妙にずれるギターリフは、誰も出来ていはない、と僕は思う。



まさむね

2012年3月 5日 (月)

ビートルズ資料館は竜宮城のようなところだった

昨日、JUN LEMONさんが学芸員をされている「ビートルズ資料館」によしむねさんとお邪魔してきた。



場所は船橋。アパートの1Fの2Fに展示室とオーディオ・ルームがあり、それぞれ圧巻。

展示室には、ビートルズ来日当時の雑誌が数々あり、一度、ページをめくるともうそこには60年代のカオスが顔を出す。

その中でも目を引いたのが竹中労責任編集の話の「特集 臨時増刊 THE BEATLES REPORT」。

思えば、竹中労という人は常に闘っていたんだなぁ。ビートルズ来日に潜む”闇の力”を糾弾するという内容で、当時は全く売れなかったそうだ。それはそうだ。ビートルマニアの女の子にとって、竹中のテーマはあまりにも重い。



ところが、現在ではオークションでは一万円の値がつき、復刻版も出ているという。

いい仕事をすれば、歴史が評価してくれるといういい見本でもある。



その他、資料館には、ビートルズの武道館のチケット、来日時のジョージとジョンの自筆サイン、そしてなんとポールとジョンの出生証明書など、面白い品が目白押し。

ちなみに、このポールとジョンの出生証明書というのは、誰でも取得できるらしい。でも、わざわざ、イギリスに連絡して取り寄せてしまうところがJUNさんの凄いところだ。



一方で、2Fのオーディオ・ルームには、ビートルズ関連の世界各国のレコード、CDがある。

僕はポールの「JUNK」、よしむねさんは「ROCK'N’ROLL MUSIC」「SOMETHING」をリクエスト。やっぱり、i-podとは音の迫力が全く違うなぁ。本物だ!



さて、一通り、見せていただいた後、ティータイム。

ビートルズ談義に花が咲く。JUNさん曰く、ビートルズの特徴はレンジが広いこと。

初期のロックンロールから、中期のバラードロック、SGTで音の金字塔(懐かしい言葉だ)を立てたかと思えば、ホワイトアルバムであらゆるジャンルの音楽に挑戦、最後は至高の名作・アビーロードで締めた。やはりビートルズは比類なき存在である。

確かに、アルバムジャケットを並べてみると、これが一つのバンドの7年間の遷移か?と思うくらい劇的な変貌を遂げている。

ビートルズの素晴らしさは、決して一つのところに留まらずに常に進歩し続けたことである。そして、その進歩が見事に時代とシンクロしていたことだ。

これこそ奇跡であると、思わず、三人(僕とよしむねさんとJUNさん)は顔を見合わせて、うなずく。



おそらく、現在のバンドに欠けているのは、この成長(チャレンジ精神)ではないだろうか。

誰とは言わないが、ある一つのパターンで売れてしまうと、その殻から出ようとしないアーティストがあまりにも多すぎる。勿論、ユーザーもそのアーティストのそういったスタイルを好むわけだから、いたずらにスタイルを変えるというのは、マーケッティングという観点でいえば、あまりにリスキーである...というのはよくわかる。

ただ、僕らは決してマーケッティングの結果としての商品を聴きたいのではないはずだ。

そんなものではなく、アーティストが何かに挑戦し、成長する、その生き様をも含めたスリリングな瞬間に、彼らが作り出す「音」を通して出会いたいのである。



もしかしたら、その意味で、前回のエントリーで触れた富野由悠季さん(やアントニオ猪木)が目指そうとした世界に近いのかもしれない。(ご興味のあるかたは「魔法少女まどか☆マギカ」とジャイアント馬場と古今集とをご覧下さい。)



それにしても、JUNさんのビートルズ談義は尽きない。しかも、全ての質問に丁寧に答えていただける。間違いなく、この「ビートルズ資料館」で一番貴重なのは、(勿論、展示物も素晴らしいのだが..)JUNさんの存在である。

とにかく、ここに来れば、身も心もビートルズ漬けになれる、ここはそんな空間なのである。



公式の開館は、3月20日(火・祝)。ご興味のある方はコチラより、予約してください。



JUNさん曰く、まだビートルに触れたことのないビートルバージン(これは僕の造語)の方、ビートルズを研究対象にしようと思っている大学生、院生の方は特に、足を運んでいただきたいとのことです。

というのも、元々、JUNさんがこの資料館を作ろうとしたきっかけは、ビートルズという20世紀最大の文化遺産を、次世代に引き継いでもらいたいと思ったからだという。

僕もJUNさんと同じ世代だが、その気持ちは物凄くよくわかる。おそらく、僕らの使命はそれぞれ個々人のスタンスは違えども、そして一人一人では微力ではあるが、そうしていいモノを後世に残し、若い人々に、自分の可能性に目を向けさせてあげることだからだ。



そして、そのための対象として、ビートルズこそは最適なのである。



そういえば、オーディオルームで、僕らは、JUNさんにビートルズデビュー前の荒削りな「I'LL FOLLOW THE SUN」と、フォーセールに収録された、完成品としての「I'LL FOLLOW THE SUN」の両方を聴き比べさせていただいた。

僕とよしむねさんは、その2バージョンを耳にして、あまりにも激しい短期間での進歩に驚く。

そして、アーティストにとって、大事なのは完成されたものではなく、未完の可能性だということに、改めて気付かされる。



もしも、無限の時間があれば、ここで、無限にビートルズを聴き、ビートルズ関連の書物を読み漁り、そしてビートルズについて、時を忘れて、語り合い続けていたい!

ここは、まるで「竜宮城」だ、そんな夢想をしながら僕らは資料館を後にしたのでした。



まさむね



※直、このページの画像は「ビートルズ資料館」より拝借しております。



THE BEATLES 全曲レビュー



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2011年7月14日 (木)

「セクシーボイスアンドロボ」と「DEAR PRUDENCE」。僕は世界の一部なのか

当たり前の話であるが、世の中に生きている人は、それぞれが勝手な世界の中で生きている。

Twitterのタイムラインを眺めていると、そんなことを感じる。本当にみんな、いろんなことを考えながら生きているんだなぁと。



しかし、その勝手な世界で生きている個々人が、なんの因果かお互いに関わりあって、この世界を作っている、それも真実である。

突然、なんでこんなことを書くのかというと、今日、「セクシーボイスアンドロボ」というテレビドラマのDVD(の第一話)を観たからである。

妻と問わず語りの雑談をしていて、松山ケンイチの話になり、なんとなく一緒に観ようという話になったのだ。



このテレビドラマは今から4年くらい前に放送されたドラマで視聴率もあまりよくなかったらしいので、おぼえていらっしゃる方も少ないかもしれない。

ただ、昨年放映された「Q10」の脚本もつとめた木皿泉が、ほとんどの脚本を手がけている作品であり、あるいは、来年の大河ドラマ「平清盛」の主役に抜擢された例の松山ケンイチの初めての主演テレビドラマとして記憶されるべき作品である。



まだ、このドラマの第一話しか観ていないので、それを前提に、以下、読んでいただければと思う。



オタクのサラリーマン須藤(松山ケンイチ)と、普通の女子中学生のニコ(大後寿々花)、そして三日たつと全て忘れてしまうという殺し屋の三日坊主(中村獅童)。

普通の生活をしていたら決して、交わることの無かったこの三人が、偶然に出会い、物語に巻き込まれていく。

話の展開の強引さは、ファンタジーの仕掛けとして置いておくとして、僕が惹かれたのは、彼ら三人が、それぞれ全く別の妄想(現実)を生きているにも関わらず、しかし、ある種の運命にひきづられるようにして、いきなり濃密な関係になっていくというその不思議さに関してである。



それは、空間と時間のイタズラとしかいいようのないもので、僕ら人間は現実に起きたことをそういったイタズラに翻弄されているとしか思えない瞬間が本当にマレにあるのだ。



そして、その瞬間の不思議さを見事に映像化したのが、この「セクシーボイスアンドロボ」なのである...とりあえず言ってみたくなるのであった。

ちなみに、このドラマに登場する女子中学生の父親は牛乳瓶のフタを集めるのを趣味としているが、最近の木皿作品である「Q10」にも電柱マニアの学校教師(爆笑問題の田中演じる)が登場する。木皿のそういった超個人的な妄想世界に生きる男性に対する眼差しは本当に暖かい(し、適度に残酷)である。



さて、最後のほうで、殺し屋の三日坊主に狙われた朝丘ルリ子演じる謎の女性が、逆に爆死してしまった三日坊主についてのニコからの質問に答えて言う。(だいたいこんな感じ)



ニコ・・・三日坊主が死んだのは私のせいなの?

謎の女性・・・そうよ。全ての人間は、関わって生きてるんだから!




この残酷だけど、不思議な真実。これがこのドラマの主題か。僕はそんなことを直感したのでありました。



さて、話は変わるが、かつて日本にも「袖振り合うも他生の縁」ということわざがあった。

この言葉は真実だとも言えるし、そうでもないとも言える。つまり、感じる人には感じることができる言葉ではある。



しかし、僕には、現代という絆が失われた時代に生きるからこそかみ締めるべき言葉のように思える。

それは例えば、具体的にはTwitterでフォローしてくれている数百人の人との縁を感じてみることであり、このブログを読んでいただいてる人々のことを想像してみるということでもある。

その意味で、現代という時代は、人と人との出会いがより偶発的に起きる可能性がある面白い時代であるとも言えるのだ。



ちなみに、僕がTwitter上で使っているユーザー名は@dearpludenceというが、これは、ザ・ビートルズの「DEAR PRUDENCE」という楽曲から取得した名前である。(本来、PrudenceだったのがPludenceとなっているのは、「r」でのユーザー名取得が出来なかったからである)

この曲は、瞑想のために、インド旅行に行った時に、部屋に閉じこもって出てこなくなったミア・プルーデンスを元気つけようとしてジョンが作ったといわれている曲であるが、この歌の歌詞の中には僕がザ・ビートルズの中でも最も好きなフレーズがある。それが以下である。



That you are part of everything

君もこの世界の一部なんだ




現在、ほとんど家の中にいて、そこからネットを通して世界を眺めるというニート状態の僕ではあるが、そんな僕も世界の一部なのだと、静かに語りかけてくれる、この「セクシーボイスアンドロボ」と「DEAR PRUDENCE」。



本当に世界の一部だと実感できるような明日は、僕にも来るのだろうか。



まさむね

2011年3月 9日 (水)

「Nowhere Boy」それはあまりにも正直な男の話である

飯田橋ギンレイホールで「ノーウェアボーイ」を観た。


この映画は、ジョン・レノンの青春時代をドラマ化したもので、特に母親ジュリアンと伯母ミミとの間で翻弄され、傷つきながらもロックンロールや仲間たちと出会い、一人の男として成長していく彼の姿を描いている。正直、秀作だ。



開場前から、長蛇の列が出来ていた。改めてジョンレノンの人気の深さを思い知る。特に中高年の方が多いようだ。おそらく、観客一人一人、それぞれのジョン観を胸に抱きながらスクリーンを見つめていたに違いない。そんな言葉にならない暖かさが会場に満ちていたというのは僕の錯覚か。



さて、これは僕の見立てであるが、ジョンは、実の母親であるジュリアンから労働者階級的な享楽主義、ロックンロール、肉体主義などを受け継ぎ、伯母のミミからは中産階級的な教養や知性、向上心を受け継いだ。そのために彼は肉体は労働者階級、頭は中産階級という複雑な存在としてビートルズを奇跡的な成功に導いたのである。



この映画で、繰り返されるシーンがあった。ジョンが外出しようとすると、必ず、ミミがジョンに、「眼鏡をかけていきなさい」と声をかけるのだ。ジョンは、その場ではミミの言う事を聞いて眼鏡をかけるが、家から離れると眼鏡をはずすのである。正直、カッコ悪いからだ。


おそらく、ここでは眼鏡はミミへの服従(のフリ)のメタファーになっている。逆に言えば、眼鏡をはずすということは少年・ジョンにとって、自由を得るということでもあるのである。



ちなみに、こんなシーンもあった。「眼鏡をかけなさい」というミミ、「ポケットに入っているよ」とジョン、「ポケットは近眼じゃないでしょ」とミミ、このあたりにイギリス的ユーモアが垣間見られた。



しかし、僕らが後年、ビートルズ史を振り返る時、ジョンレノンが、アイドルという仮面を脱ぎ出した頃、つまりステージを降りた頃、年代でいえば66年頃に眼鏡をかけ始めたという歴史に思い至る。そして、逆に眼鏡こそ、ジョンの象徴的アイテムになっていくのだ。彼がロックンローラーから、内省的なロックミュージシャンに変貌していくために、そして労働者階級的肉体主義から、中産階級的観念主義へ移行していくために、眼鏡は必要なアイテムだったと言うのは言いすぎだろうか。


もっともそれは、この映画の観点からすれば、まさに皮肉だ。ジョンの眼鏡は、逆に、社会の反逆者・ジョンの象徴となっていくのだから。





さて、この映画について、もう一つ語ってみたいことがある。それはこの映画のタイトル「NowhereBoy」のことである。映画の最初の方で、ジョンは学校の教師に叱責される。その時、お前はこのままで行ったら就職が出来ないだろう、行き場もなくなるだろうと言われる。そこでNowhereという言葉が使われる。それに対して、ジョンは「そこは天才のたまり場?おれの場所です」というように返す。


そして、映画の中では、ミミの家は窮屈、ジュリアンの家には居場所がないという、悩み多きNowhereBoyとしてのジョンが描かれている。



しかし、ジョンの凄さは、上記二つの個人的なNowhereBoyを超えて、普遍的なNowhereManを発見したことだろうと僕は思っている。


少々大げさに言えば、「Rubber Soul」の中の「Nowhere Man」は、共同体から引き剥がされて、自分自身とは何なのかについて夢と不安の中で生きざるを得ない運命を背負った20世紀後半以降の若者を表現するのにもっともふさわしい曲なのだ。



さらに言えば、「Nowhere Man」というのは「Now Here Man」ということでもある。


つまり、どこにも居場所の無い男は、今、ここにいるありふれた男、というダブルミーニングにもなっているということだ。



この映画のもう一つの見所、それは、後に天才と言われたジョンは、実は、やんちゃで、スケベで、嫉妬深い、時に暴力的で、時にナイーブでわがままでおちゃらけた、しかし優しい普通の少年だったというところである。


彼の天才性は、特別の才能というよりも、そんな自分をさらけ出せる特別な正直さだったのかもしれない、この映画はそんなことも僕らに教えてくれる。


昔、僕がお世話になった会社(GAGA)が配給している映画だからというわけではないが、未見の方は、是非、劇場で見て欲しい映画だ。



まさむね

2010年12月23日 (木)

アビーロードが文化的・歴史的遺産となった日

あのビートルズのアビーロードのジャケットで有名な横断歩道が、イギリスの文化的・歴史的遺産に指定されたという。

時事通信によると...

建物以外が指定されたのは初めてという。この横断歩道はビートルズがアルバムの録音に使ったロンドン北部の「アビイ・ロード・スタジオ」の前にあり、ジャケットにはポール・マッカートニー、ジョン・レノン、ジョージ・ハリスン、リンゴ・スターのメンバー4人が横断歩道を渡っている写真が使われている。


とのことだ。

ご存知の方も多いかと思うが、このジャケットに関してはいろんなエピソードが残っている。

はじめはエベレストっていうタイトル名が考えられ、ヒマラヤでの撮影も検討されていたというが、メンバー一同、面倒ッ臭いってことで却下。近所で撮影すればいいじゃないかって、(Why don’t we do it in the road?)いうことで、スタジオ前の横断歩道で撮影されたという。

またジャケットに写っている四人の姿、そして後ろに写っている自動車のナンバープレート等から、ポール死亡説まで飛び出した。



考えてみれば、ビートルズは「SGT. PEPPER’S LONELY HEARTS CLUB BAND」以来、まじめにジャケットを作るということをしなくなっていた。ホワイトアルバムは白いだけだし、イエローサブマリンはアニメ、レットイットビーは4枚の写真を並べただけだ。でも、それぞれのジャケは、どれもこれも歴史の名前とデザインを残したんだから、さすがビートルズである。誰かが「ビートルズが行ったことに失敗は無い」と言っていたが、確かにビートルズにはあらゆる偶然を必然に換える力があったように思う。これを人は奇跡というのであろう。



そして、今回、このアビーロードの横断歩道が歴史的遺産になった。イギリスとしても観光客誘致の一戦略なのだろうが、僕は素直に喜びたい。

確かに、このジャケは「世界で最もパロディ化されたジャケット」というだけあって、僕もたまに、意外な場所でアビーロードのパロディらしきものを目にしてニヤリとする。

サザンオールスターズの「キラーストリート」やポール自身の「ポール・イズ・ライブ」は言うに及ばず、例えば、テレビナビという雑誌にあったナビーロードという小さなコラム、着物のハクビのハクビロードという宣伝ポスター、ホリエモンと西村博之の対談本の中でも二人が横断歩道を渡っている写真があったっけ...



それにしても、時事通信の記事、なんで、ポール、ジョン、ジョージ、リンゴの順なんだろう。

この記事の元となる外電の記事でポールからのコメントを取ったということから、彼に敬意を払った結果だろうか。

ジョン、リンゴ、ポール、ジョージの順というのが自然だと思われるのだが...

ビートルズオタクの僕は細かいところも気になるのであった。



まさむね

2010年11月 3日 (水)

やっぱり、この季節はビートルズを意識せざるを得ない

Yahooの「The Beatles 50Years Anniversary」という企画ページ(12月15日まで)でビートルズ名盤曲名あてクイズというのがあってやってみた。



初級とかもあったが、うぬぼれの強い僕はいきなり上級に挑戦。

全部で18曲。曲のイントロとか途中が流れて制限時間内に曲名を当てるという一見簡単だが、結構ドキドキするクイズである。

最初は、こんなの簡単だと思いながら当てていくが、10問を過ぎるあたりから、逆に「間違えられない」という意識がムクムク、めちゃくちゃ緊張してしまった。

白鵬の気持ちの千分の一位はわかった。



それでも、なんとか18問正解で、Twitter画面へ誘導されると...



ビートルズ歴50年? 名盤曲名あてクイズ<上級編> 全問正解 おすすめの曲は「アクロス・ザ・ユニバース」です。




僕の年齢までほぼ当てていただいて、逆に恐縮である。

しかもおすすめの曲は「アクロス・ザ・ユニバース」です..か。「ありがとうございます。」(棒読み)という感じだ。

それにしても、ビートルズ50周年というが、何から数えて50周年なのか。おそらく、最初に「ザ・ビートルズ」という名前をつけてからだろうが、実際にジョンとポールとジョージが一緒にやりはじめたのはその数年前だから、ちょっとこじ付け臭くもないが、まぁいいか。



それよりも、「50周年」を数えても今なお、こうした企画になっていること自体が凄い。しかもこういった企画で若い人もどんどんファンとして聴きついでもらえればなによりだ。



そうこうしているうちに、今年も「ジョンレノンスーパーライブ」の時期も近づいてきた。

ジョンの誕生日(10月9日)、ジョージの死亡日(11月29日)、ジョンの死亡日(12月8日)とやっぱり、この季節はビートルズを意識せざるを得ない。



それにしても、ヨーコ・オノは今年で77歳、1933年生まれということはちょうどナチスが政権を奪取した年か...

いろいろと論議はあるがやっぱりスーパー婆さんであることは間違いないだろう。



まさむね

2010年10月17日 (日)

「ビートルズ都市論」(3) 彼らには冷たかったロンドン

ビートルズが世界的な成功を収めるために、彼らはその本拠地をリバプールからロンドンに移した。しかし、そこは彼らにとってどうしても馴染めない街であった。「ビートルズ都市論」(福屋利信著)で、ハンブルグの次に取り上げるのがロンドンである。



僕は以前、ロンドンから汽車で1時間半位のケンブリッジという街に1ヶ月位寝泊りしたことがあった。ゲームの製作進行状況のチェックのために、現地に滞在したのだ。

その時、ある日本人女性に通訳についてもらった。彼女は時々、自分のことを語ってくれた。

彼女は日本にいた頃、美智子妃殿下と同級生であったいう。

そして美智子さまから結婚について相談され、「止めちゃいなさいよ」と助言したというが、結局、美智子さまは皇室に入られたというのだ。

この話がウソか本当かなどということは、今となっては確かめようもないが、そんな彼女は、ゲーム製作会社のスタッフ達が、どの階級出身者なのかを思いの他、気にしていて、僕にいちいち教えてくれたのを覚えている。

彼女いわく、言葉遣い、吸っているタバコ、読んでいる新聞、そしてなんと、身体の姿勢で、大体、その人の出身階級がわかるというのだ。

ゲーム製作会社というのは、出身階級というよりは好きで社員になっている人が比較的多い。逆に、だからこそ、裏では彼らはお互いの出身階級を確認しあい、無用なトラブルを避けるというのが暗黙のルールなのだ。だから、そういった階級詮索はむしろお互いのためなのだというのが彼女の話だった。

日本ではありえない話だが、それが階級社会のイギリスの現実なのであろう。その時僕は、そう思った。



僕が「ビートルズ都市論」の中で最も興味深く読んだのが実はこのロンドンの章である。

ビートルズの4人の中で、ロンドン子を恋人にしたのがポールとジョージである。ポールの相手は絵に描いたような上流階級の娘、ジェーン・アッシャー、ジョージの相手はトップモデルのパティ・ボイドである。二人は当時のロンドンの新しい価値観(この本の中ではスィンギングロンドンと表現している)を体現した娘であったのだ。

確かに、ジェーンもパティも、男性を陰で支え、従順に生きるような古い価値観の女性ではなかったようだ。二人とも当時としては、自立して生きることを当然と考えるような革新的な女性だったのである。

勿論、ビートルズ達はそういった革新性に対して、表面的には同調していたに違いない。しかし、彼女達、そしてビートルズ達の中には、そういった意識改革ではどうしても消すことの出来ない保守的な部分が残っていた。それがイギリスの階級制度なのである。

この本の中の下記の部分は僕にとっていささかショッキングだった。

パティはジョージの実家を初めて訪れたとき、「ジョージと私はお互いにかなり違った環境で育ったことに気づいた」と告白している。イギリス人には、常に他者の社会階層を何よりも優先的に意識する習慣が染み付いている。夫婦間であってもその習慣は働いてしまうのであろう。・・・そのことに罪悪感はないし、相手の階層が自分の階層と異なるとわかれば、相手の生活習慣を侵害しないように心がける。日本人にとってネガティブに捉えられがちなパティの告白は、イギリス社会においては日常の一部なのである。ビートルズは個人生活においては、結局のところ階級の壁を越えられなかった。


実のところ、僕は、彼らの作った歌の歌詞の中に、時々、どうしようもない保守性を感じることがある。

例えば、ジョンが作った「Run For Your Life」、ポールの「Another Girl」などが典型である。女性に対してジョンは時として暴力的だし、ポールは同様にあまりにも自分勝手な面があるのである。



それにしても、それはビートルズだけではない。僕らも、時として因習を引きずって生きていかざるを得ない。それは自分が意識をしようとしまいとそうしてしまうのである。

ビートルズの歌はそのメッセージとして「自分らしく生きる」ことを僕らに伝えてくれた。

しかし、それは簡単なことではない。「自分らしさ」というのは何なのか、本当に何の制約もない「自分らしい」ことなどあるのだろうか、そういった苦悩をもメッセージの裏側に貼り付けて僕らに投げつけたのがビートルズなのだ。

あまりにも有名な話であるが、1963年、「ロイヤルバラエティパフォーマンス」でジョンが「一般席の人々は拍手を、残りの人々は宝石をじゃらじゃらならしてください」と言った。そして、彼はそれを言った後に、微妙な笑顔をしながら、おそらく無意識だろう、首をすくめて、一瞬、低い姿勢になる。

僕は、その映像を見るたびに、ケンブリッジで会った通訳の女性が言った「姿勢を見れば階級がわかるのよ。」という言葉を思い出す。ジョンは「レボリューション」のメッセージとして、Change your head(君の頭を変えろ)と歌ったが、実は頭を変える以上に、咄嗟の身体の所作を変えることのほうがよほど難しいのかもしれないと思うのであった。



まさむね

「ビートルズ都市論」(1) 労働者の町・リバプール

「ビートルズ都市論」(2) 野生と知性の街ハンブルグ

「ビートルズ都市論」(3) 彼らには冷たかったロンドン

2010年10月16日 (土)

「ビートルズ都市論」(2) 野生と知性の街ハンブルグ

ハンブルグとビートルズ。「ビートルズ都市論」(福屋利信著)がリバプールに次いで取り上げているのが、ビートルズが修行時代に過ごしたハンブルグだ。



実は、ここでも僕は一つ告白しなければならない。僕はハンブルグに行ったことがあるかもしれないのだ。いや、実はフランクフルトだったかもしれない。土曜日の朝に成田を発ち、13時間かけてドイツに着き、現地で打ち合わせをして一晩して、月曜日の朝に成田に戻るという出張をしたことがあるのだ。

そんなバタバタの旅だったから、しかもそれは15年も前の話だから、そこがフランクフルトだったのか、ハンブルグだったのか曖昧なのだ。ただ、その町には確実にポルノ街があった。現地の会社の人にタクシーの中でそんな話を聞いた記憶がある。

もしかしたら、そのあたりは、ビートルズが修行したレパーバーンだったのかも...これはあくまでも願望だが。



ビートルズがハンブルグで修行をした時代、そのレパーバーンは、船乗り、不良、売春婦達のたまり場だったという。ビートルズはストリップ小屋でストリッパーの前座としてステージに上がっていたのだ。客の視線をなんとか自分達に惹きつけるため、あらゆることをしたとジョンは述懐している。

イギリスにこもっていたら、絶対にあんなに成長しなかったね。ハンブルグじゃ思いついたことを何でもやるしかなかった。


しかし、彼らがハンブルグで得たものはそうした最悪の状況で身についたバンドとしての「腹」、パワー、テクニック...そうしたものだけではなかった。



この本では、ハンブルグで彼らが出会ったイグシスという前衛的な中流階級の若者からの影響について丹念に描かれている。

アスリット・キルヒヘア、クラウス・フォアマン、ユンゲン・フォルマー...。

ビートルズは、彼ら彼女らから、ファッション、芸術、実存主義という全く新しい刺激を受けた。そしてそれはかけがいのないものとなっていくのである。

ビートルズは、この葛藤のすえに、ハンブルグの下層階級のロッカーとも、中産階級のイグジスとも共有できる価値観を育て、双方から「野生と知性」を吸収しつつ、リバプールのテディ・ボーイから世界のオピニオンリーダーに成長していったのである。


ここの話で興味深いのは、このイグジスに対するメンバー一人一人のスタンスがその後の彼らの進路を必然的に決めていったということである。

イグシスの価値観と最も自分を同化させたのがスチュワートサトクリフである。彼はアスリットの家に住み込み、絵画の勉強に専念することを選択し、ビートルズから足を洗った。

一方で、どうしてもイグシス的な前衛性を自分の中に取り入れることができなかったのがピートベスト(左絵)である。それは彼がずっとリーゼントを通したことでもうかがい知れる。その後、ピートベストと他のメンバーとの間に徐々に溝が出来ていったのはご存知の通りである。結局、デビュー直前に彼はビートルズをクビになるのであった。



エネルギーと前衛性、感性と知性、音楽と思想。

ビートルズはその後、世界に飛躍するために必要だった両輪の武器(の萌芽)をこのハンブルグで得たのである。

60年代、ビートルズは、ロックンロールをロックへと成長させたとはよくいわれることだ。それは、彼らがハンブルグで得た極端なニ面性があって初めて可能なことだったのである。これは歴史の必然とでもいうべきなのだろうか、この二面性の吸収に失敗したメンバーはビートルズになれなかったということなのであろうか。

それも残酷な現実である。



言ってみれば当たり前のことではあるが、出会いと好奇心、そして夢、それらはいつの時代もどの場所でも大切なものだということを、ハンブルグ時代のビートルズは、僕らに教えてくれる。



まさむね

「ビートルズ都市論」(1) 労働者の町・リバプール

「ビートルズ都市論」(2) 野生と知性の街ハンブルグ

「ビートルズ都市論」(3) 彼らには冷たかったロンドン

2010年10月14日 (木)

「ビートルズ都市論」(1) 労働者の町・リバプール

最近、ヤンマさんのブログ「BEATLESを歌おう♪ Yeah Yeah Yeah!」で、「レニーとヤンマの英国珍道中」が連載されていて、お気に入りだ。いつか、僕もリバプールに行って、その土地にビートルズを感じたい、そんなことを感じさせる内容である。



ここで告白だが、実は、僕もリバプールに行ったことがあるのだ。それは今から15年ほど前。

僕が海外ゲームのバイヤーをしていた頃の話だ。リバプールにあったシグノシスという会社にプレステのレースゲーム購入の交渉に行っていたのだ。

しかし、僕はシグノシスのオフィスで打ち合わせをしてすぐにリバプールをあとにしてしまった。だから、誠に変な話ではあるが実は本当にリバプールへ行ったかどうかも曖昧だったのだが、当時の同僚と話をしてそれが本当だということがわかったのである。

当時はそれほど、忙しかったということでもあるが、一方で、その時期、僕のビートルズに対する情熱も「冬眠中」だったということである。



全く惜しいことをした。僕のリバプールに対する思い出は、「無」に等しいのだから...

僕もいつか、ちゃんとリバプールへ行ってみたい。そして、ペニーレインの青空を眺め、ストロベリーフィールズの門の前で幻想的な気分に浸りたい。

        ★

さて、先週末の連休に僕は「ビートルズ都市論」(福屋利信著)を読んだ。

ビートルズの音楽をその背後にある都市の歴史、経済、社会などから読み解こうとする一冊だ。具体的に言えば、ビートルズが誕生したリバプール、ロックンローラーとして成長したハンブルグ、世界のビートルズに飛躍したロンドン、そしてオマケの東京、の4都市の都市の歴史、経済などを語りながら、それぞれの都市からビートルズが何を吸収していったのかを論じている。正直言って僕の好みの視点である。



まずはリバプール。この街は、かつて奴隷貿易で栄えた。その後も、綿花貿易や造船業など、文化的というようりも産業都市として、大英帝国の繁栄を下支えした土地であったという。

この本でも、奴隷貿易の拠点であったリバプールは、このように描かれている。

西洋文明のエゴイスティックな繁栄に加担した罪を背負った町でもあるのだ。


また、当時、ロンドンに暮らしていたピーターバラガンの言葉を引いている。

「南イギリスから見れば、・・・北部の町は人も暗いってイメージがある。一言で言えば、景気の悪い地方都市という感じ」


確かに、リバプールにはこれといった文化遺産などない。敢えて言うならば「つまらない」労働者の町に過ぎないのである。しかし、ビートルズの面々は後々までこのリバプールに、そしてそこに住む人々に対する愛情を抱き続けた。その証拠がポールの「ペーニーレイン」とジョンの「ストロベリーフィールズフォーエバー」の2曲だ。

ペニーレインの明るい町並みとストローベリーフィールズという幻想的な場所...



この本では、ビートルズの音楽の中に流れるリバプールの都市の匂い、つまり、ロックビートのルーツである黒人文化、想像力が豊かなアイリッシュ文化、異文化を許容するカソリックの伝統、そして、ロンドンをはじめとする南イングランドへの反骨心を読み込んでゆく。

いずれにしても、ビートルズの音楽の底に流れる彼らのハングリー精神は、このリバプールという土地が醸造したというわけである。



確か「フリーアズアバード」のプロモーションビデオの冒頭で、ビートルズの4人のメンバーが背中を丸めながら労働者の格好をして造船工場に入っていくシーンがあった。この映像は決して、単なるジョークではない。それは、彼らが送ったかもしれないもう一つの(人生=「現実」)そのものなのだ。

ビートルズの音楽が全世界を席捲し、人々の琴線に触れることができたのは、彼らのファンタジックな歌の裏面にそういった「現実」が、こびりついた業のように張り付いていたからかもしれない。僕はこの本を読みながらそんなことを考えた。



まさむね

「ビートルズ都市論」(1) 労働者の町・リバプール

「ビートルズ都市論」(2) 野生と知性の街ハンブルグ

「ビートルズ都市論」(3) 彼らには冷たかったロンドン

2010年7月15日 (木)

原作を知る者なら、原盤を映画に起用するのは必然的ではない「ノルウェイの森」

この冬に封切りされる映画『ノルウェイの森』の主題歌にビートルズの「ノルウェイの森」の原盤が使用することに決まったという。

それ自体は、大変、嬉しいことである。ビートルズの楽曲がまたより多くの人の耳に触れるからだ。



しかも、僕が70年代後半に自由が丘の場末の映画館でみた「全共闘ポルノ」で「レットイットビー」が流れていたのとは違う。

ちゃんと権利をクリアしたということなのである。



僕は以前より、村上春樹の【ノルウェイの森】とビートルズの「ノルウェイの森」との間には、共通の世界観があると感じていた(「村上春樹とビートルズの「ノルウェイの森」における共通点」参照のこと)が、これに映画『ノルウェイの森』も加わったと考えていいのだろう。ますます楽しみだ...



しかし、ここですんなり喜べないのが僕の性格の悪いところ。

この記事(「交渉1年超、映画『ノルウェイの森』主題歌にビートルズ「ノルウェーの森」」)に微妙に違和感を感じてしまったのである。そこを少し指摘しておきたい。

まず、下記の部分。

しかし、1年以上にわたる交渉が実を結んだ小川真司プロデューサーは、「原作では冒頭でビートルズの曲が流れ、主人公のワタナベはそれまでの出来事のすべてを振り返り、時の流れを思い起こします。映画で生のビートルズのメロディを聴くと、原作の大人になったワタナベのかき乱されるような感情を実感できると思います」と確かな手応えを得ている。


えっ!?、小説の冒頭の「ノルウェイの森」は、ビートルズの原盤ではないんじゃないだろうか。

その部分を引用してみよう。

飛行機が着地を完了すると禁煙のサインが消え、天井のスピーカーから小さな音でBGMが流れ始めた。それはどこかのオーケストラが甘く演奏するビートルズの「ノルウェイの森」だった。そしてそのメロディーはいつものように僕を混乱させた。いや、いつもとは比べものにならないくらい激しく僕を混乱させ揺り動かした。


しかも、冒頭だけではない。実は、この小説に出てくる「ノルウェイの森」は、ここ以外は(多分)、レイコさんが弾くギターの「ノルウェイの森」なのであり、ビートルズのレコードの楽曲は使われていないのだ。

しかし、記事はこう続けられる。

原作を知る者なら、「原盤を起用するのは必然的なことでした」というトラン・アン・ユン監督の言葉にも納得するに違いない。


僕はビートルズの楽曲が使われることが嬉しいというのとは、別次元で一抹の不安も感じたのであった。

残念ながら「原作を知る者なら、原盤を起用するのは必然的ではないこと」を知っているからである。



まぁ、僕の「イジワル心」を作品全体のすばらしさが吹き飛ばしてくれることを望むばかり、封切りが楽しみだ。



まさむね



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